Altmetric社が2018年に影響力の大きかった論文トップ100のランキングを発表しています。この100本の学術論文の中から、当サイトの管理人が独断と偏見で選んだ生物学などに関係する論文10本をご紹介します。出典論文へのリンクも全て記載しています。
炭水化物の摂取量は多過ぎても少な過ぎても死亡リスクが増加する
炭水化物の摂取量はほどほどが健康に良い、との研究結果が示されました。炭水化物を減らしてタンパク質や脂肪の摂取量を増やす「糖質制限」(ロカボ、低炭水化物食)がダイエット法として世界的に流行していますが、その長期的な寿命への影響はまだはっきりしていません。
本研究では1万5428人のアメリカ人を25年間追跡した結果、炭水化物からのエネルギー摂取率の割合がほどほど(50~55%)だった場合に最も死亡リスクが低いことがわかりました。また、日本を含む世界約43万人のデータを解析した結果、炭水化物からのエネルギー摂取の割合が少な過ぎる(<40%)場合も多過ぎる(>70%)場合もいずれも、炭水化物を適度に摂取する人に比べて死亡リスクが上昇したそうです。
また、同じ低炭水化物食であっても、炭水化物を動物由来のタンパク質や脂肪に置き換えた場合は死亡リスクが上昇したのに対し、炭水化物を植物由来のタンパク質や脂肪に置き換えた場合は死亡リスクが低下したようです。
※2017年にはこの研究結果とは違って、炭水化物の摂取量が高いことが高い死亡率と関連していることなどが報告され、話題となりました。
⇒ 2017年話題になった生物学の最新ニュース・論文まとめ10選
除草剤グリホサートはミツバチの腸内微生物相をかく乱する
参考動画:Kurzgesagt – In a Nutshell ”ミツバチ大量死の原因” (日本語字幕あり)
花粉を媒介する送粉者として生態系や農業において重要な役割を果たすミツバチが、近年大量に失踪する現象が問題となっています。様々な研究によりその原因が少しづつ明らかにされつつあり、例えばEUではすでに今年に入ってネオニコチノイド系農薬の野外使用の全面禁止が決定しています(日本では逆に近年ネオニコチノイド系農薬の規制を緩和)。
【関連記事】⇒ 仏、ネオニコ系農薬5種を使用禁止に ハチ大量死との関連指摘
⇒ 欧州、ミツバチ大量死の原因殺虫剤を全面禁止 際立つ日本の独自路線
本研究では、モンサント社の商品名「ラウンドアップ」で知られる除草剤グリホサートが、ミツバチの腸内の有益な微生物群をかく乱することで病原菌への感染リスクを高めるなど、間接的に悪影響を及ぼしている可能性が示されています。(共生微生物の中にはグリホサートがターゲットとする酵素を含んでいて、影響を受ける細菌などもいるため)
参考動画:”Weed killer is causing the bee genocide” (New York Post) 本研究の概要を報じた動画(英語のみ)
2019年に発表されたグリホサートや腸内細菌に関する研究は以下の記事でも取り上げています。
⇒ 除草剤グリホサートに世代を越える毒性のリスクかーラット動物実験の結果
その他マイクロバイオームについては以下の記事でも触れています。
⇒ 抗生物質の副作用ーマイクロバイオームへの悪影響で免疫力低下
⇒ 驚異のヒト体内共生微生物、健康のためにあなたが知るべき5つの事実ーマイクロバイオームとは?
ネット上で嘘は真実よりも速く拡散する
「フェイクニュース」についての学術研究です。2006年から2011年にTwitter上で延べ300万人が計450万回以上ツイートした約12万6,000件に及ぶ嘘と真実(6つの独立したファクトチェック機関が判定)がどのように広まるか調べた結果、嘘の方が真実よりも速く、より広く拡散することがわかりました。これは政治的なニュースに関する嘘で特に顕著だったようです。
また、嘘をより拡散させるのはボットなどの機械ではなく、むしろ人間だったようです。フェイクニュースには新規性があるため、人々がシェアする可能性が高いことが示唆されています。
参考動画:”The Truth About False News with Sinan Aral, MIT” (MIT Initiative on the Digital Economy)論文の著者であるMITのSinan Aral氏が本研究の概要について語っています。(英語のみ)
関連記事 ⇒ ディープフェイクとは?偽動画の例や仕組み・作り方・危険性などをまとめて紹介
AI(人工知能)が皮膚がんの診断で専門医を上回る
世界中から集められた皮膚科医58名とAI(人工知能)が皮膚がんと良性のほくろを画像から見分ける診断対決を行った結果、AIに軍配が上がりました。AIの方が皮膚科医よりも皮膚がんの見落としが少なく、しかも良性のほくろを誤って皮膚がんと間違えることも少なかったようです。このAIは皮膚がんを診断できるようになるために10万枚以上の画像を使って訓練されたとのことです。将来的に皮膚がん診断の有用なツールとなることが期待されます。
参考動画:”Detecting cancer in real-time with machine learning” (Google) 機械学習によるリアルタイムのがん検出(英語のみ)
AIに関連する研究は以下の記事でも取り上げています。
⇒ 人工知能AIが脳を解読して、心の中のイメージの画像化に成功
⇒ あなたの顔に一瞬現れる「微表情」からAIが本音の感情を読み取る!?ー最新心理学研究
⇒ 人工知能AIで早産児の脳の発達度を評価、脳波を測定して自動分析ー最新研究
ブルーライトが目を傷つけるメカニズムが判明
ブルーライト(青色光)はヒトが目で見える光(可視光線)の中でも波長が短く、強いエネルギーを持っており、テレビやPC・スマホ・タブレットのLED画面などからも多く発せられています。本研究では、目の網膜に存在するレチナールという分子がブルーライトにさらされることによって、細胞に有害な反応が生じる過程が明らかにされました。ブルーライトが目に及ぼす影響やその対策をめぐって議論が巻き起っているようです。
ブルーライトや電磁波については以下の記事でも取り上げています。
⇒ ブルーライトが脳や寿命に悪影響を及ぼす可能性、ハエの実験で判明【最新研究】
⇒ スマホなどの電磁波が人体に及ぼしうる悪影響とその対策ー最新科学論文紹介
一晩徹夜するだけでアルツハイマー病に関わるタンパク質が脳に蓄積する
睡眠不足が脳に及ぼす潜在的な悪影響についての研究です。慢性的な睡眠不足の弊害についてはすでに知られていましたが、本研究ではたった一晩徹夜するだけで、アルツハイマー病に関連するタンパク質であるアミロイドβが脳内で増加することが明らかになりました。ただし本研究の調査規模は小さく、さらなる研究が必要とのことです。
睡眠に関連する研究は以下の記事でも取り上げています。
⇒ なぜ動物は眠るの?睡眠の役割はDNAのダメージ修復かー最新研究
⇒ 「学校の始業時間は早過ぎ」クロノタイプ(朝型/夜型)の最新研究
⇒ 不規則な睡眠は学校の悪い成績と関連?最新の科学研究結果!
イヌを飼うことは死亡リスクの低下と関連している
スウェーデン人約340万人を対象とした調査により、イヌを飼っている人は、飼っていない人よりも死亡率が低いことが明らかになりました。また、1人暮らしでイヌを飼っている人は心血管疾患のリスクも低いことがわかりました。イヌを飼うことで外で体を動かす機会が増えたり、うつや孤独感といった社会心理的なストレスが緩和されたりすることなどが健康に役立っている可能性があるようです。
遺伝子編集ツールCRISPRは予想以上のDNA損傷を引き起こす恐れがある
CRISPR(クリスパー)とはノーベル賞候補ともいわれる遺伝子を編集するためのツールで、医療・農業など幅広い分野での応用などが期待されています。本研究では、このCRISPRがこれまで考えられていた以上にDNAの大規模な欠損や再配列を引き起こす恐れがあるとして、その危険性を警告しています。
参考動画:What Happens When CRISPR Backfires? (Seeker) CRISPRゲノム編集のリスクなどについて解説しています(英語のみ)
※2018年11月には、中国の研究者が世界で初めてCRISPRにより遺伝子を編集した赤ちゃんを誕生させ、物議をかもしています。
⇒ 世界初の遺伝子編集ベビーを誕生させた中国研究者、自ら語る【動画】
ゲノム編集・CRISPRとは何か?については次の記事でまとめています。
⇒ ゲノム編集・クリスパーCRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説
CRISPRを応用した遺伝子ドライブについては次の記事で解説しています。
⇒ 遺伝子ドライブとは?図や動画で原理・メカニズムをわかりやすく説明
病院の細菌がアルコール消毒に対して耐性を高めつつある
抗生物質や薬が効かない薬剤耐性菌はすでに世界的に大きな問題となっていますが、本研究では、病院で広く使われている手洗い用のアルコール性消毒剤が効きにくくなっている細菌(エンテロコッカス・フェカリス)について報告されています。アルコール性消毒剤だけに頼らない新たな対策の必要性が訴えられています。
参考動画:”Deadly superbugs are evolving to beat alcohol hand sanitisers” (New Scientist) 本研究についての報道(英語のみ)
抗生物質耐性菌については以下の記事でも触れています。
⇒ 抗生物質が効かない薬剤耐性菌とは?問題や原因・対策を動画でわかりやすく解説!
⇒ 抗生物質耐性菌への画期的対策で緑膿菌や大腸菌の成長を阻害ー最新研究
⇒ 抗生物質耐性菌の耐性遺伝子の起源・伝播メカニズムが解明ー最新研究
「太平洋ゴミベルト」のプラスチック汚染が急速に進行中
参考動画:国連 “プラスチックの海”(日本語字幕あり)
海洋のプラスチック汚染は現在大きな問題となっています。地球上の海のプラスチックごみが多数集まる「太平洋ゴミベルト」と呼ばれる海域が調査された結果、その範囲は160万平方キロメートル(フランスの面積の約3倍に相当)に及び、1.8兆のプラスチック片(世界中の人々が1人あたり250のプラスチック片を持つことに相当)を含み、浮遊するプラスチックの総重量は8万トン(東京タワー約20個分に相当)になると推定されています。
参考動画:The Ocean Cleanup “Boyan Slat – The New Picture of the Great Pacific Garbage Patch (2018)”(英語のみ、本研究の概要をBoyan Slat氏が語っています)
※プラスチックの海洋汚染などに関連して、2019年には例えば次のような研究も報告されています。
⇒ マイクロプラスチックを海洋哺乳類の体内で発見、調査した全個体でー英最新研究
⇒ 世界最深マリアナ海溝にすむ甲殻類の体内でマイクロプラスチックを発見ー最新研究
⇒ 家や食品に広く混入するプラスチック可塑剤がヒトと犬の精子を劣化させるー最新研究
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