ゲノム編集だけではないCRISPR、ウイルスの検出・破壊で医療へ応用【最新研究】

CRISPRといえばゲノム編集が有名ですが、他の方法でも医療への応用が可能なようです。

学術誌「モルキュラー・セル」に2019年10月に掲載されたCatherine A.Freije氏らの論文では、CRISPRのCas13という酵素によってRNAウイルスを検出・破壊する方法が発表されています。

ウイルスに対する治療薬の開発

現在のところ、ウイルスに対する治療薬やワクチンは十分ではないようです。

ヒトの病気の原因となるウイルスは多様で、新たな病原体が出現したり、また、薬剤耐性を急速に進化させたりするため、それらに柔軟に対応できるような新たな抗ウイルス薬の開発が必要とされているとのことです。

CRISPRを利用して、RNAウイルスを検出・破壊

今回、Catherine A.Freije氏らの研究では、CRISPRのCas13という酵素を利用してウイルスを検出・破壊する方法を開発したようです(下図参照)。

↑インフルエンザAウイルス(IAV)などのRNAをCas13で検出・破壊する仕組みの模式図。どのターゲット(標的)を狙うかもプログラム可能なようです。Catherine A.Freije氏らの論文[CC]より引用)

CRISPRではDNAをターゲットとするCas9が有名かと思いますが、今回の研究で用いられたCas13はRNAを切断できるようです。

インフルエンザウイルス、エボラウイルス、ジカウイルスといったヒトの病気を引き起こすウイルスの多くはRNAウイルスだそうです。

CRISPRは自然界ではもともと、細菌がバクテリオファージに対抗するための免疫システムだったと言われていますので、今回の発明ではそれをうまく医療に応用したようですね。

※CRISPR・ゲノム編集の概要についてはこちらの記事でまとめています

ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説
ノーベル賞候補ともいわれるゲノム編集技術(→追記:2020年ノーベル化学賞)。この衝撃的な最新テクノロジーは私たちの社会や生活を大きく変えつつあります。 まだ日本語でわかりやすい説明が少ないように思いますので、英科学誌「ネイチャーコミュニケ...

Cas13を用いてウイルスを検出する方法は、以前からすでに確立されていたようで、「SHERLOCK」と呼ばれているようです(下の動画参照)。

参考動画|McGovern Institute:Cas13を利用してウイルスを検出する「Sherlock」システムについての解説。たとえば、エボラウイルスの大流行時に現場でウイルスを検出することなどに利用できる可能性があるようです(英語のみ)

管理人チャールズの感想

ゲノム編集以外の方法でCRISPRを医療に応用した、興味深い研究でした。ウイルスと戦うために細菌がもともと持っていた、いわば自然の武器をそのまま生かそうというのは、もしかすると賢明な方法なのかもしれないですね。

Freije, C.A.; Myhrvold, C.; Boehm, C.K.; Lin, A.E.; Welch, N.L.; Carter, A.; Metsky, H.C.; Luo, C.Y.; Abudayyeh, O.O.; Gootenberg, J.S.; et al. Programmable Inhibition and Detection of RNA Viruses Using Cas13. Mol. Cell 201976, 826–837. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2019.09.013

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