抗生物質耐性菌の耐性遺伝子の起源・伝播メカニズムが解明ー最新研究

抗生物質ストレプトマイシンを発見したワクスマンら 

近年、薬が効かない耐性菌の増加が人類にとって脅威となりつつある。

このような抗生物質耐性遺伝子の起源はどこにあり、どのようにして病原菌に伝播するのだろうか?

30年来の謎が、ついに解明された。耐性遺伝子は、どうやら抗生物質を作り出した張本人である放線菌に由来するらしい。

ネイチャー・コミュニケーションズに今月発表されたXinglin Jiang氏らの研究では、一部の抗生物質耐性遺伝子の起源が放線菌であることを支持する証拠が見つかった。

耐性菌増加で「ポスト抗生物質時代」へ

抗生物質が効かない耐性菌の増加が近年懸念されている。

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WHO(世界保健機関)は、21世紀に抗生物質が役に立たなくなる「ポスト抗生物質時代」が来る可能性について警告している。抗生物質が効かなければ、ちょっとした怪我やありふれた感染症で死に至る危険がある。

抗生物質耐性遺伝子はどこからやってくるのか?

放線菌とは?

放線菌、特にストレプトマイセス属は、ストレプトマイシンなど臨床的に重要な抗生物質を多数生産している。

こうした抗生物質を生産する細菌は、抗生物質に対する自己防衛などに役立つ耐性遺伝子も同時に持っていることが多い。

40年来の謎

早くも1973年には、細菌に見られる抗生物質耐性酵素の一部は、その抗生物質を生産する放線菌に由来するという仮説が提唱されていたが、直接的な証拠は見つかっていなかった。

Xinglin Jiang氏らの研究では、大腸菌や緑膿菌などヒトにとって重要な病原菌を含むプロテオバクテリアで耐性遺伝子が調べられた。

耐性遺伝子は放線菌を起源として伝播していた

研究の結果をまとめると、

〇いくつかの耐性遺伝子のタンパク質は、プロテオバクテリア自身を含む他のあらゆる門の細菌で見られるタンパク質より、放線菌のタンパク質と類似していた。

〇系統樹も、いくつかのタンパク質が放線菌から水平伝播したことを示唆。

〇耐性遺伝子の近隣の遺伝子が作り出すタンパク質も放線菌のものと類似しており、付加的に一緒に水平伝播した可能性を示唆。

このような証拠から、プロテオバクテリアの耐性遺伝子の一部は放線菌から伝達されたことが示唆された

放線菌から耐性遺伝子が伝わるメカニズム「キャリー・バック (carry back)」

また、耐性遺伝子が放線菌からプロテオバクテリアに伝わるメカニズム(”carry back” [元の所へ戻す]メカニズム)も、それを支持する証拠とともに提案された(下図参照)。

 

 耐性遺伝子が細菌に伝播する”carry back” [元の所へ戻す] メカニズムの模式図Xinglin Jiang氏らの論文の図を改変)

1、接合というプロセスによってプロテオバクテリアから放線菌に遺伝子が伝達される。

2、放線菌の細胞内で、耐性遺伝子が、プロテオバクテリアに注入された遺伝子の間にサンドイッチ状に転移する。

3、放線菌が死んだあと、自然形質転換によって、耐性遺伝子を含む遺伝子が再びプロテオバクテリアの遺伝子の相同な場所に組み込まれる。

つまり「キャリーバック(carry back)」メカニズムとは、プロテオバクテリアの遺伝子がいったん放線菌に取り込まれて耐性遺伝子が組み込まれたあと、放線菌の死後、再びその遺伝子がプロテオバクテリアに取り込まれるという仕組みだといえる。

このようにして放線菌を起源とする耐性遺伝子が伝播していったと考えられる。

※放線菌からプロテオバクテリアへの接合、形質導入は今のところ知られていない。一方、プロテオバクテリアは接合により、系統的に離れた生物体であってもDNAを伝達することがよく知られている。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Jiang, X., Ellabaan, M., Charusanti, P. et al. Dissemination of antibiotic resistance genes from antibiotic producers to pathogens. Nat Commun 8, 15784 (2017). https://doi.org/10.1038/ncomms15784

管理人チャールズの感想

最近懸念されている耐性菌についての研究でしたが、とても興味深い結果だと思いました。耐性遺伝子が放線菌から病原菌にダイレクトに伝わるわけではなく、病原菌からいったん離れた遺伝子が修飾されたあとで再びブーメラン的に返ってくるというのが面白いですね。

ただ、耐性遺伝子の起源・伝播メカニズムが明らかになっても、すぐに耐性菌の増加を防げるわけではないかもしれません。今後のさらなる研究・応用が期待されます。

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