昆虫食とは?メリット・デメリットや栄養、日本・世界の昆虫食などまとめて簡単に紹介

「昆虫食」が近年注目されています。将来懸念される食糧危機などを考慮して国連が推奨している他、2030年には市場規模が79.6億ドル(約8500億円)に達するとの見通しも発表されています。

この記事では、2013年のFAO(国連食糧農業機関)のレポートや最新の研究・学術論文なども参考にして、昆虫食のメリット・デメリット・栄養や日本・世界の状況などを図や動画とともに簡単にまとめてみました。

※アイキャッチ画像(FAOのレポートより引用):左上から時計回りに、幼虫を売る中央アフリカの女性、ベルギーチョコの上に載ったコオロギ、大量飼育施設のアメリカミズアブ、昆虫入りの前菜、食品着色に用いられる甲虫、ヤシゾウムシの幼虫)

昆虫食とは?

参考動画|TED-Ed:昆虫食の概要についてのわかりやすい解説(日本語字幕あり

昆虫は昔から世界中で食べられてきた!

昆虫を食べるということは、決して新しい試みではありません。

人類が昆虫を食べる種として進化してきたことを示す考古学的証拠もあるようです(Raubenheimer et al. 2011)。

キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の文献でも昆虫食について触れられており、たとえば聖書にはバッタを食べること関する記述がみられます。

また、古代ギリシャのアリストテレスはセミを食べることに言及しています。

現在でも、世界で少なくとも20億人が昆虫を食べる伝統文化を持っており、2000種以上の昆虫が食料として利用されているようです。

↑昆虫食の世界市場の成長予測(上)と、各国で記録されている食べられる昆虫の種数(下)(クレジット:statista[CC])

世界ではどんな種類の昆虫が食べられているのか?

↑世界で食べられている昆虫の種数の目別の割合FAOのレポートに日本語で種名の例を追加)

世界で最も普通に食べられているのは甲虫類(カブトムシの仲間)で全体の31%を占めます。

第2位はチョウやガの仲間で18%。ほとんどが幼虫として食べられ、サハラ以南のアフリカで人気のようです。

第3位はハチやアリの仲間で、特にラテンアメリカでよくみられるようです。第4位はバッタ・イナゴ・コオロギなど、第5位はセミ・ヨコバイ・ウンカ・カイガラムシ・カメムシなどの仲間。以下、シロアリ、トンボ、ハエ、ゴキブリなどが続きます。

このように、世界では様々な昆虫が食べられているようです。

日本の昆虫食の昔と現在

江戸時代に書かれた文献には、昆虫食についての記述が残っています。

↑江戸時代に書かれた百科事典「守貞謾稿」で、「螽(いなご)蒲焼売」の商売について記述されたページ。「イナゴを串にし醤をつけてやきて之を売る・・・」国立国会図書館デジタルコレクションより引用)

また、1919年に三宅恒方氏により報告された「食用及薬用昆虫に関する調査」では、トンボ(主にヤゴ)、バッタ、セミ、ガ(主に幼虫)、カイコ(主に蛹)、カミキリムシ(幼虫)、ゲンゴロウ、ハチ(主に幼虫)など計55種の食用昆虫が日本各地で記載されています。

現在の日本でも、様々な形で昆虫は食べられているようです。

参考動画|itopronet 様:セミの唐揚げや燻製を実際に調理している様子などがみられます。

昆虫料理研究家・内山昭一氏のツイートです。

参考動画|バグズクッキング 昆虫食&虫料理様:タレントの井上咲楽さんらがゴキブリの天ぷらを調理・試食しています。

昆虫食の通販なども企業のビジネスとして行われているようです。

東京には女性向けの昆虫食の自動販売機が設置されているようです。

昆虫食のメリット

人口増加や食糧危機への切り札?

2050年までに世界人口が90億人に達するとの見通しがあるようです。

現在でも10億人近い人たちが慢性的な飢餓に苦しんでいるとの推定もあり、食品のロスや分配・効率性の問題、土地不足、水不足、気候変動といった課題について議論が行われています。

参考動画|greentvjapan:「ハンバーガーを一個捨てると、浴槽16杯分の水を捨てることになる」食品ロスの環境影響についてのわかりやすい解説動画(日本語)

昆虫食は環境に優しい!

昆虫の方が牛・豚・鶏などの家畜よりも食べられる部位の比率が高く、育てるために必要な土地・エサ・水の量も少なくて済むという試算があるようです。

↑家畜(牛、豚、鶏)と昆虫(バッタ、ミールワーム)を1kg育てるのに必要な土地・エサ・水の量。動物の図の%表示は、可食部位の比率。Dobermann et al. 2017[CC]より引用)

また、昆虫の方が、家畜よりも温室効果ガスやアンモニア(=土地の硝化・酸性化を引き起こす)の排出も少なくて済むという報告もあります。

↑肉牛・豚・昆虫(ミールワーム、コオロギ、バッタ)が排出する温室効果ガスとアンモニアFAOのレポートに日本語を追加)

栄養上の利点

昆虫食の栄養については、幅広く様々な種類の昆虫がいるため、大きなばらつきがあります。また、同じ種でも幼虫・蛹・成虫といった成長段階での違いや、調理方法による差異もあるようです。

しかし、近年の研究(Rumpold and Schlüter, 2013)によれば、多くの食用昆虫は十分な量のエネルギーとタンパク質・アミノ酸を含んでおり、不飽和脂肪酸が多く、微量栄養素(銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、セレン、亜鉛、ビタミンB2、パントテン酸、ビオチン、場合によって葉酸など)も豊富とのことです。

ヨーロッパイエコオロギ(クレジット:Brian Gratwicke [CC])

2018年の研究(V J Stull et al. 2018)では、コオロギを食べることでヒトの腸内環境が改善する可能性が示唆されています。

カイコの幼虫Lilly M [CC])

他にも、今年発表された研究(C Di Mattia et al. 2019)では、in vitroの実験によって、食用として市販されているバッタ・カイコ・コオロギがオレンジジュースよりも高い抗酸化作用を持つことなどが示されたようです。

このことから、昆虫食は心臓病・糖尿病・がんの予防などに役立つ可能性も考えられます。

昆虫食の潜在的デメリットや課題

アレルギー

たとえば、甲殻類アレルギーを持つ人は、昆虫に対して同様のアレルギー反応を起こす危険性があるとの報告があります(Dobermann et al. 2017)。

FAOのレポートでは、大多数の人々にとって、昆虫を食べることでアレルギー反応が起きる大きなリスクはないとされています。

残留農薬や化学汚染

イナゴ

昆虫に限った話ではありませんが、特に野外で生物を採集して食べる場合には、周辺で農薬や殺虫剤が使われていないことを確認するなど、注意が必要でしょう。

飼育昆虫については、適切な衛生管理によってリスクは抑えられると考えられます。

栄養の吸収が妨げられる?

反栄養素(アンチニュートリエント)は、栄養源の吸収を妨げる物質のことです。

たとえば、キチンは昆虫の外骨格の成分ですが、タンパク質の消化を阻害する性質があるとの報告があります(Belluco et al. 2013)。

キチンの化学構造

一方で、キチンは不溶性食物繊維であり、免疫にプラスの作用をもたらしたり、キチンの派生物であるキトサンがコレステロールを低下させたりといった報告があるなど、健康上の影響については今後のさらなる研究が必要なようです。

寄生虫・細菌など微生物のリスク

昆虫は、他の動物と同様、細菌・ウイルス・菌類・原生動物などを保有している可能性があります。

他の動物由来の食品(肉や魚など)と同じように、加熱・殺菌など適切な調理・処理をおこなうことで、微生物によりヒトが病気に感染するリスクなどは十分に抑えられると考えられているようです。

気持ち悪い?

参考動画|CNN:アメリカで初めて、食用コオロギを育てる企業が誕生。倉庫での飼育の様子やレストランでコオロギ入りの料理の例などがみられる(英語のみ)

欧米諸国では特に、昆虫食を気持ち悪いものとして、嫌う傾向があるようです。

一方、動物のエサとして昆虫を用いることには抵抗感が少ないとの報告もあり(Verbeke et al. 2015)、欧米での昆虫食の普及は、動物のエサとしての利用が第一歩となるかもしれません。

まとめ

・世界では20億人以上が昆虫を食べており、2000種以上の昆虫が食料として利用されている

・日本にも昆虫を食べる伝統文化があり、現在でも昆虫は食べられている

・昆虫食は環境に優しい側面があり、栄養面でもメリットがある

・昆虫食ではアレルギーや微生物に注意が必要だが、適切な処理などでリスクは抑えられる

さまざまな可能性を秘めた昆虫食の未来に、今後も注目していきたいですね!

主な参考文献

主要参考文献・出典論文

・FAOのレポート:Arnold Van Huis, Joost Van Itterbeeck, Harmke Klunder, Esther Mertens, Afton Halloran, Giulia Muir and Paul Vantomme, 2013. Edible Insects, Future Prospects for Food and Feed Security, Food and Agriculture Organization of the United Nations. Rome, Italy, http://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf

Dobermann D, Swift JA, Field LM. Opportunities and hurdles of edible insects for food and feed. Nutr Bull. 2017; 42(4): 293–308. DOI:10.1111/nbu.12291

・昆虫料理研究家・内山氏の本:内山昭一(2012)『昆虫食入門』 平凡社新書 ※Amazonへのアフィリエイトリンクを含んでいます。

・Baltimore Raubenheimer D, Rothman CM (2013) The nutritional ecology of entomophagy in humans and other primates. Annu Rev Entomol 58:141–160 https://doi.org/10.1146/annurev-ento-120710-100713

・農林水産省 (1919) 食用及薬用昆虫に関する調査 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010826248.pdf

・Rumpold, Birgit A, and Oliver K Schlüter. 2013. Nutritional composition and safety aspects of edible insects. Molecular nutrition & food research 57 (5):802-823. https://doi.org/10.1002/mnfr.201200735

・Stull, V.J., Finer, E., Bergmans, R.S. et al. Impact of Edible Cricket Consumption on Gut Microbiota in Healthy Adults, a Double-blind, Randomized Crossover Trial. Sci Rep 8, 10762 (2018). https://doi.org/10.1038/s41598-018-29032-2

・Di Mattia C, Battista N, Sacchetti G and Serafini M (2019) Antioxidant Activities in vitro of Water and Liposoluble Extracts Obtained by Different Species of Edible Insects and Invertebrates. Front. Nutr. 6:106. doi: 10.3389/fnut.2019.00106

・Antonia Ricci, Maurizio G. Paoletti, Cristiana C. Alonzi, et al. Edible insects in a food safety and nutritional perspective: A critical review. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 12, 296–313. https://doi.org/10.1111/1541-4337.12014

・Wim Verbeke, Thomas Spranghers, Patrick De Clercq, Stefaan De Smet, Benedikt Sas, Mia Eeckhout. Insects in animal feed: acceptance and its determinants among farmers, agriculture sector stakeholders and citizens. Animal Feed Science and Technology, 2015; https://doi.org/10.1016/j.anifeedsci.2015.04.001

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