スマホなどの電磁波が人体に及ぼしうる悪影響とその対策ー最新科学論文紹介

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スマホなどの電磁波がヒトの健康に及ぼす生物学的な影響について、新しい研究成果を踏まえながら世界的に議論が行われています。しかし日本語で発信されている情報(学術論文などの科学的知見やそれに基づく議論・対策など)はまだ限られているように思いますので、海外の最新の科学論文を中心として、電磁波の健康リスクに関する科学者たちの警告や予防的対策などをご紹介します。

※筆者は電磁波の専門家ではありません。そのため、当記事では本テーマについて包括的で完全な知見を提供することを目的とはしていません。学術・医療分野などにおける正確性を求められる方はもちろん、この問題についてより詳しく知りたい方は、本文中に載せている出典論文や参考資料(大半がリンクをたどることでオンラインにて閲覧可能)を直接ご覧になられることをおすすめいたします。

電磁波とは?

電磁波の主な分類と使用例(電力会社が公表している資料などを元に作成)

電磁波の種類

電磁波とは、電磁場の振動が真空中または物質中を伝播する現象です。周波数または波長によって様々な種類に分類されています。上図では波長の短い方から、ガンマ線・エックス線・紫外線・可視光線・赤外線・電波としています。一般に波長が短いほど光子のエネルギーは強くなります。

電磁波の人体への影響

エネルギーの強いガンマ線・エックス線・紫外線の一部は電離作用を持っており電離放射線に分類され、DNAの損傷や、がんなどを引き起こすことが知られています。一方、電離作用を持つほど強くはない電磁波は非電離放射線と呼ばれています。そのうち周波数が3T(テラ)Hz以下の電磁波は「電波」と呼ばれ、無線通信など様々な用途で利用されています。

十分な強度を持つ電波が人体に当たると、その一部が吸収されて組織が加熱され体温が上昇します。これが電磁波の熱作用です。電子レンジが物を温めるのと基本的には同じ原理です。熱作用が人体に悪影響を及ぼしうることについてはすでに科学的なコンセンサスが得られています。そのためWHO(世界保健機関)や各国政府は熱作用の悪影響ができるだけ人体に及ばないような強度に電磁波を規制するガイドラインを設定しています。

一方、コンセンサスが得られておらず近年議論が沸騰しているように見えるのは、電磁波の非熱作用です。電磁波の非熱作用とは、熱作用を持つほど強くはない強度の電磁波が人体に及ぼす作用のことです。以下で示すように、熱作用を持たない弱い電磁波が人体に悪影響をもたらすことを示す論文・データも少なくありません。

スマホなどの電磁波による健康リスク(世界各国の医者や科学者たちによる警告)

上述の通り、スマホなどの電磁波がヒトの健康に及ぼしうる様々な悪影響については、現時点ではまだ科学界全体でコンセンサスは得られておらず議論が続いています。2018年7月に学術雑誌「Environmental Pollution」にて発表されたBelpomme氏らの論文*では、例えば次のような警告が発せられています。

*Thermal and non-thermal health effects of low intensity non-ionizing radiation: An international perspective (低強度の非電離性放射線の熱的・非熱的な健康への影響ー国際的な視点)   https://doi.org/10.1016/j.envpol.2018.07.019

人々が電磁波にさらされる機会は劇的に増加しつつある

かつては一般人がさらされるのはテレビやラジオの電波だけでした。しかし今では、携帯電話の数は世界の人口と同じくらいになっており、世界中の人が高周波電磁波にさらされています。いたるところに携帯基地局が存在しています。先進国では、より高い周波数を用いる5G(第5世代移動通信システム)運用のために狭い間隔に多数の小型基地局を設置しようとする動きが加速しています。また、WiFiやスマートメーター、自動運転車なども電磁波の発信源です。

関連動画 RT America:”Cancer risk? 5G wireless speeds could be dangerous” 携帯電話と発がん性の関連や5Gのリスクに関する報道(英語のみ)

携帯電話などから発せられる電磁波はヒトや動物でがんのリスクを上昇させる

WHOの一機関であるIARC(国際がん研究機関)は、2011年に無線周波電磁界(周波数:30KHz~300GHz)を発がん性評価で2B “発がん性があるかもしれない” に分類しました。より根拠の強い2Aや1に分類されなかった主な理由の一つは、電磁波ばく露によってがんが生じるという明白な動物実験のデータが不足していたことでした。しかし次に示すように、権威ある研究機関により近年行われた大規模な動物実験では、電磁波ばく露と発がんの間に明白な関係が認められています。

・アメリカのNPT(国家毒性プログラム、米国保健福祉省を中心として発がん性評価などを行うプログラム)の実験(ファクトシートはこちら

⇒携帯電話からの電磁波に過度にさらされることは、オスのラットにおいて心臓の腫瘍と明白に関連していることが示される

⇒オスのラットにおいて脳の腫瘍との関連も示される

・イタリアのラマツィーニ研究所による実験(Falcioni et al., 2018**)

⇒上記NTPの実験と同様、携帯電話基地局から発せられる電磁波により、オスのラットで脳や心臓の腫瘍が増加することが示される

**Report of final results regarding brain and heart tumors in Sprague-Dawley rats exposed from prenatal life until natural death to mobile phone radiofrequency field representative of a 1.8 GHz GSM base station environmental emission.  https://doi.org/10.1016/j.envres.2018.01.037

参考動画:Environmental Health Trust “Ramazzini Institute Study on Base Station Radiofrequency Radiation: Teleconference March 22, 2018” ラマツィーニ研究所の実験に関する解説(英語のみ)

こうした研究結果などを踏まえ、スマホなどの電磁波の発がん性について評価の見直しを求める声が上がっています。

(関連記事)

ニューズウィーク紙日本版:「スマホの電磁波で癌になる」は本当か

米国国立衛生研究所(NIH)が発表したNPTの最終レポート(2018年11月):”High Exposure to Radio Frequency Radiation Associated With Cancer in Male Rats

AFP通信:携帯電話の長時間使用で脳腫瘍に、原告の主張認める 伊裁判所

ザ・ヒル紙:  “There’s a clear cell phone-cancer link, but FDA is downplaying it”

インディペンデント紙:“‘Clear evidence’ of mobile phone radiation link to cancers in rats, US health agency concludes”

ウォールストリートジャーナル紙:”Scientists Find ‘Clear Evidence’ Cellphone Radiation Can Cause Cancer in Rats

論文などで報告されている健康リスクの一例

熱作用を持つほど強くない非電離放射線電磁波による健康リスクに関する研究は、Bioinitiative Report(バイオイニシアティブ・レポート)www.bioinitiative.org に体系的に整理されています。Lai博士による1013ページにわたる研究サマリーには、1999年から2017年まで発表された電磁波の生物学的影響に関する膨大な数の学術論文のアブストラクトが収録されています。上述した脳や心臓のがん以外にも例えば次のような健康リスクが報告されており、議論が続いています。

・子供の白血病(Ha et al., 2007

・乳がん(West et al., 2013

・男性の生殖能力(精子や精液など)への影響(Agarwal et al., 2009

・女性の生殖能力への影響(Roshangar et al., 2014

・流産(Li et al., 2017

・アルツハイマー病(García et al., 2008

また、いわゆる電磁波過敏症(electrohypersensitivity)についてもバイオマーカーの開発など診断基準を客観化しようとする研究も進んでおり、議論が盛んに行われています(Belpomme et al. ,2015; Hedendahl et al., 2015

WHOなどの規制基準は非熱作用を考慮しておらず、とりわけ子供への影響が懸念される

WHOや世界の多くの政府機関が設定している規制基準は、電磁波の非熱作用による人体への影響を考慮していないため人々の健康を守るには不十分である、とBelpomme氏らは指摘しています。特に子供(赤ちゃん・胎児を含めて)は神経系が発達途上で、頭のサイズが小さくて頭蓋骨が薄く、潜在的に長期間にわたり電磁波にさらされる恐れがあることから、大人よりさらに厳しい電磁波の規制基準が必要だ、との主張がなされています。

フランスの法律では14歳未満の子供への携帯電話の広告が禁止されています。その他イギリス、イスラエル、ベルギー、ロシア、フィンランド、スウェーデン、カナダ、キプロスなどで子供の携帯電話使用を制限するべきといった勧告が出されています。

(関連ページ)

世界41か国の200人以上の科学者たちが非電離性放射線電磁場ばく露からの保護を国連に要求

電磁波研究に関わる問題点

・WHOの環境保健クライテリアの草稿作成を担当した中心メンバーの大半が業界と密接な関わりを持っており、利益相反の問題が生じているとの指摘があります(Starkey, 2016Hardell, 2017

・通信業界などの企業から資金提供を受けた研究の方が、独立した資金源による研究よりも、電磁波による健康への影響を報告する可能性が低くなる(Huss, 2007)、といった企業の資金提供による研究バイアス(利益相反)の問題が指摘されています。

(関連記事)ガーディアン紙: “The inconvenient truth about cancer and mobile phones

参考動画 メルボルン大学: Devra Davis博士が携帯電話の電磁波の危険性(脳腫瘍や乳がん、精子などの生殖能力、学習能力、妊婦・子供ヘ及び得る悪影響など)について、多数の論文を引用しながらわかりやすく解説しています。終わりの方で利益相反の問題にも触れています。(英語のみ) 

参考動画 TEDx Talks: Jeromy Johnson氏が自身の症状(いわゆる電磁波過敏症)や体験について語りながら、ワイヤレステクノロジー(スマートメーター、wifiなど)による電磁波汚染について警告しています。利益相反の問題にも触れています。(英語のみ)

今すぐ簡単にできる、スマホからの電磁波ばく露を減らす方法(対策)

以下は、米国カリフォルニア州公衆衛生局が2017年12月に公表した電磁波対策の概要を大まかに翻訳したものです。

・携帯電話(スマホなど)をできるだけ身体から離しておく。(少し距離を離すだけで、電磁波ばく露量は大きく減らせる)

・通話時に電話を頭部近くで保持しないようにする。通話時にはスピーカーまたはヘッドセットを使うようにする。(有線/無線のヘッドセットが発する電磁波は携帯電話と比べてずっと少ない)

・通話の代わりにできるだけメッセージ送信機能を使う。

・音楽や動画のストリーミング中や大きなファイルのダウンロード・送信中には携帯電話を身体や頭から遠ざけておく。

・スマホはカバンやハンドバッグなどに入れて携帯する。ベルト、ブラジャーやポケットなどに入れて持ち運ばないようにする。(携帯電話は使用していない時でも電磁波を発している。電源を切るか機内モードにすれば電磁波は出ない。)

・携帯電話が強い電磁波を出しているときにはできるだけ使わないようにする。

例1:アンテナが1,2本しか表示されていない時(シグナルが弱いときは携帯基地局に接続しようとして強い電波を発する)

例2:高速で移動している車・バス・電車などの中にいる時(次々に切り替わる基地局との接続を維持しようとして強い電波を発する)

例3:音楽や動画のストリーミング中や大きなファイルのダウンロード・送信時(動画や音楽については、先にダウンロードを済ませた後で機内モードに切り替えてから視聴するようにする)

・眠るときはベッドや頭の近くに携帯電話を置かないようにする。(電源を切るか機内モードにしないのであれば、少なくともベッドから数フィート以上[約60~90cm以上]離しておく)

・通話中以外はヘッドセットを外しておく。(ヘッドセットは電話を使っていないときにも微弱な電波を発するため)

・「電磁波シールド」のような類の、携帯電話からの電磁波などを防止する機能をうたった製品をあてにしないようにする。米国連邦取引委員会(FTC)によれば、携帯電話のシグナルを妨害する製品はかえって携帯電話が発する電磁波を強くする恐れがあり、電磁波へのばく露を増やしてしまう可能性があるという。

(原典資料) 米国カリフォルニア州公衆衛生局(CDPH):How to Reduce Exposure to Radiofrequency Energy from Cell Phones(携帯電話からの電波曝露を減らす方法)

管理人チャールズの感想

電磁波の用途は非常に幅広く、すでに人々の生活にとって欠かせない重要なテクノロジーとなっていますね。電磁波に関する研究は、産業・経済にとてつもなく大きな影響が及ぶだけでなく、場合によっては軍事や政治などにも関わってくるでしょうから、正直、純粋に科学的に議論するのは難しいように感じます。今後も人々が関心を持って議論し続けることはとても大切だと思いますが、少なくとも一定のリスクが明らかになった時点で、予防原則に従って簡単な電磁波ばく露削減法などは人々(特に子供や妊婦など)に広く知れ渡っていた方がいいような気が個人的にはしています。

※当記事は最新情報などを追加するなど、今後もアップデートしていく可能性があります。

主要参考文献

Thermal and non-thermal health effects of low intensity non-ionizing radiation: An international perspective D.Belpomme et al. Environmental Pollution  https://doi.org/10.1016/j.envpol.2018.07.019

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