「卵子の数は決まっている」との定説覆す新発見、卵巣の幹細胞で不妊治療の将来に光明かー最新研究

「生まれた時点で一生分の卵子の数は決まっており、出生後は増えない」との定説がくつがえりそうだ。

ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」に先月掲載されたNing Wang氏らの研究では、大人になってからも卵母細胞が作られており、妊娠に直接関わっていることがわかった。

将来的に不妊治療の方法が改善され、閉経の年齢を遅らせられるようになる可能性もある。

「生まれた時点で卵子数は決まっている」という定説

ほぼすべての動物のオスでは、大人になってからも精子が作られる。

一方メスの場合は、ハエと魚類では、卵巣に生殖幹細胞(卵原幹細胞)があり、成体になってからも卵子が作られていると考えられている。

これまでの定説として、つい最近までは、哺乳類のメスの一生分の卵子数は生まれた時点で決まっており、出生後は増えないと考えられていた

しかしこの定説が近年覆りつつある。

定説を覆す新発見が続々と発表

2004年にネイチャーに掲載された研究では、マウスの卵巣に卵母細胞や卵胞の生産に関わる幹細胞が発見された。

2009年にネイチャー・セルバイオロジーに掲載された研究では、マウスの幹細胞を単離して卵巣に移植し子供を作ることに成功した。

その後、多くの論文でマウス以外の哺乳類でも、ウシや霊長類・ヒトの卵巣で卵原幹細胞の存在が報告される。

哺乳類の卵原幹細胞の発見はこれまでの常識を覆すもので、多くの議論が巻き起こった。

2012年にネイチャー・メディシンで発表された研究では、22~33歳の女性6人の卵巣から、卵子を作り出せる幹細胞が発見された。(以下は関連動画)

参考:nature videoによる、2012年の論文の著者Jonathan L. Tilly氏のインタビュー動画(英語のみ)

大人になってから作られた卵子は役に立っているのか?

このように卵原幹細胞の研究については多くの進展が見られる。

しかし、
哺乳類の成体の卵巣で幹細胞から新たに作られた卵子が実際にどれだけ役に立っているかについてはまだよくわかっていなかった。

今回のNing Wang氏らの研究では、

マウスの卵巣の幹細胞を追跡して、その働きについて調べた。

 大人になってから作られた卵子も妊娠に役立っている

Ning Wang氏らの研究で幹細胞を識別して追跡したところ、卵に分化したあと受精して子供ができ、その子供は正常に発育してさらに子供を作った。

つまり、大人になってから作られた卵子は、妊娠に直接貢献していることがわかった。

また、年を取るにつれて卵子がなくなる原因は、幹細胞自体がなくなることよりもむしろ、幹細胞の機能の不具合である可能性が高いと考えられた。

管理人チャールズの感想

この論文の考察が正しければ、卵子の数についてのこれまでの定説を覆すことになり、大変インパクトのある研究だと思います。人々の常識が変わる日はそう遠くないかも知れません。

論文の著者の一人であるJonathan L. Tilly氏はOvaScience(オバサイエンス)というスタートアップ企業でミトコンドリアを利用した不妊治療などをすでに提供しているようです。

将来的には、この幹細胞を利用して体外で卵子を作ったり、閉経の時期を遅らせたりといった生殖医療技術が生まれるかも知れませんね。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Wang, N., Satirapod, C., Ohguchi, Y. et al. Genetic studies in mice directly link oocytes produced during adulthood to ovarian function and natural fertility. Sci Rep 7, 10011 (2017). https://doi.org/10.1038/s41598-017-10033-6

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