同性愛/異性愛に関わる遺伝子発見?男性の性的指向の最新ゲノム研究

「ゲイ遺伝子」のような性的指向(同性愛/異性愛/両性愛など)を決める遺伝子は存在するのだろうか?

ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」に今月掲載されたA. Sanders氏らのゲノム研究では、男性の性的指向に影響する可能性のある遺伝子領域が特定された。

性的指向・同性愛とは?

参考:同性愛についてのTEDx Talksの動画(英語)

「性的指向」とは、どの性別を恋愛や性愛の対象にするかのことで、大きく異性愛(ヘテロセクシュアル)・同性愛(ホモセクシュアル)・両性愛(バイセクシュアル)に分けられる。性の好みを表す「性的嗜好」とは別な概念だ。

性的指向の生物学

家族や双生児を調べたこれまでの研究から、男性の性的指向にはある程度遺伝子が関わっていると考えられている(遺伝率は30~40%)。

しかし遺伝子以外にもさまざまな環境要因などが影響しているという証拠もあり、単純に一つの「ゲイ遺伝子」があって性的指向を決定しているわけではない。

1990年代の研究ですでに、男性の同性愛者と異性愛者で脳(間脳視床下部)の構造が違うことや、男性の同性愛にX染色体が関係していることなどが指摘されている。

2014年には、8番染色体も男性の同性愛に関係しているとの研究が発表された

生物進化と同性愛のパラドックス

一般に同性愛者は異性愛者に比べて子供を残す確率はずっと低い。しかしヒトのあらゆる文化圏で、そしてヒト以外の動物でも、少数ではあるが一定数の同性愛個体が知られている(ヒトの場合は男性の3~4%が同性愛者)。

多くの子供を残す個体ほどその遺伝子が世代を重ねて増えていくという自然選択の進化的な観点からすると、同性愛者の存在はパラドックスと言える。

この謎に対する仮説には例えば次のようなものがある。

ゲイの「叔父さん」仮説

必ずしも自分が子供を残さなくても、自分と遺伝子の共有率が高い家族・近親者の子供を助ける(例えば食料や家の提供・保護監督など)ことで、間接的に自分の遺伝子を残すことができるとする説(血縁選択説)。

例えば社会性昆虫であるアリのワーカーは繁殖を行わないが、姉妹の養育・繁殖を手伝うことで、間接的に遺伝子を残していると考えられている。

サモアの「ファファフィネ」と呼ばれる第3の性(男性を性愛の対象とする男性)を調査した研究でこの仮説を支持する結果が得られている。

★男性をゲイにする遺伝子を持つ女性は多産になるという説

同じ遺伝子でも、それを持っているのが男性か女性かによって働きが変わる可能性がある。ゲイの男性が子供を残さないとしても、同じ遺伝子を持つ母親などの近親者が子供を十分多く残すならば、この遺伝子は集団中に保持されるかもしれない。

この仮説を支持する報告として、男性同性愛者の母親や母方のおばの方が、異性愛者の母親・おばよりも子供の数が多いことを指摘した研究がある。

性的少数者LGBTの象徴であるレインボーフラッグ

「ゲイ遺伝子」の新たな候補

今回A. Sanders氏らの研究では、1077人の同性愛者と1231人の異性愛者のゲノムを比較して調べた結果、男性の新たな「ゲイ遺伝子」の候補として13番染色体と14番染色体を挙げている。

★13番染色体

13番染色体上の候補遺伝子は神経の発達に関わるもので、大半が間脳で発現しているという。間脳にある視床下部の構造は、男性の同性愛者と異性愛者で違うことが先行研究で知られている。

★14番染色体

14番染色体上の候補遺伝子は甲状腺の機能などに関わっているという。同姓婚者ではバセドウ病のリスクが高まっているとの報告もあり、男性の性的指向と甲状腺の機能は関連している可能性がある。

今回のゲノム研究の調査対象はヨーロッパ人に限られておりサンプルサイズも小さいため、今後のさらなる研究が望まれる。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Sanders, A.R., Beecham, G.W., Guo, S. et al. Genome-Wide Association Study of Male Sexual Orientation. Sci Rep 7, 16950 (2017). https://doi.org/10.1038/s41598-017-15736-4

管理人チャールズの感想

性的指向についての興味深い生物学的研究でした。今回の研究対象は男性でしたが、女性の性的指向については男性ほど研究が進展していないようです。性的指向に関わる生物学的な仕組みは複雑そうなので、解明にはまだまだ時間がかかるかも知れませんね。いずれにしても、多様な人々が生き生きと暮らせる社会が来ることを願っています。

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