リンゴやコーンを食べるカイコが誕生、ゲノム編集で味覚の遺伝子を破壊ー最新研究

カイコの幼虫は、なぜ桑の葉しか食べないのだろう?その原因と考えられる遺伝子が見つかった。米科学誌「プロス・バイオロジー」に2019年2月に掲載されたZhong-Jie Zhang氏らの研究では、味覚受容体に関連すると思われる遺伝子を破壊することにより、リンゴやナシ・コーンなどを食べる蚕を作り出すことに成功した。

昆虫の食性と味覚

昆虫がどんな食べ物を好むかは、嗅覚や味覚が重要な役割を果たしていると考えられる。昆虫の味覚受容体は、糖や苦み成分、不揮発性のフェロモンなどを感知できることが知られている。アゲハチョウの仲間では、産卵のための植物を認識するのに味覚受容体が関わっているとの報告がある(Ozaki et al.,2011)。

アゲハチョウでは、前足の先にある味覚受容体が産卵植物の認識に関わっているという

K Ozaki et al. A gustatory receptor involved in host plant recognition for oviposition of a swallowtail butterfly [CC]の図を引用)

参考動画|VOX:蚕の誕生から絹糸が作られるまでを解説したダイジェスト動画(カンボジアの例、英語のみ)

しかし、カイコがなぜ桑の葉しか食べないのか、その分子的なメカニズムはこれまでわかっていなかった。

ゲノム編集で、苦味受容体の候補遺伝子を破壊

最近の研究によって、カイコの味覚受容体遺伝子は特定されているものの、大半の遺伝子の機能はまだ解明されていない。また、カイコの食性の好みに、味覚受容体遺伝子が関わっているかどうかもわかっていなかった。

今回、Zhong-Jie Zhang氏らの研究では、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術によって、苦味受容体の候補遺伝子を破壊して、カイコの食性の変化などを調べた。

※ゲノム編集・CRISPRとは何か?については次の記事にまとめています。

⇒ ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく原理・応用例や倫理的問題を解説

実験の結果

C:リンゴ D:ナシ E:大豆 F:コーン(Zhong-Jie Zhang氏らの論文[CC]の図を引用

苦味受容体の候補遺伝子を破壊した結果、カイコは桑の葉以外の果物や種子も食べるようになった。

ただし、桑の葉以外の餌で育った幼虫は、全て5齢で死亡した。長期にわたる家畜化によって桑の葉に適応した結果だと考えられる。

本研究によって、カイコが桑の葉しか食べない原因となっている遺伝子がほぼ特定されたといえる。味覚受容体についての知見は、養蚕業への応用や、農業害虫を管理する新たな手法の開発に生かせるかもしれない。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Zhang Z-J, Zhang S-S, Niu B-L, Ji D-F, Liu X-J, Li M-W, et al. (2019) A determining factor for insect feeding preference in the silkworm, Bombyx mori. PLoS Biol 17(2): e3000162. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3000162

管理人チャールズの感想

このように、簡単な遺伝子操作によって生物を劇的に改変できる例を見ると、改めてCRISPRゲノム編集というツールの強力さを実感します。ただ、今回の遺伝子改変カイコについては、おそらく適切な食べ物の区別ができなくなっているだけであり、桑の葉の代わりにリンゴを食べて成長できるわけではないと思われます。

栄養的には優れているけれど不味いためカイコが嫌がって食べないようなエサがあるならば、今回のカイコが直接応用できるかもしれませんね(親が子供にピーマンを食べさせようとするようなシチュエーションです。笑)

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