自閉症の原因に関連する可能性のある、新たな知見が得られた。
ネイチャーの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ」に今年掲載されたJean Golding氏らの論文では、母方祖母の妊娠中の喫煙が、孫の自閉症と関連していることがわかった。
自閉症とは?
参考:TEDの動画「ウェンディ・チャン: 自閉症―分かっていること(と、まだ分かっていないこと)」※右下のボタンをクリックすると日本語字幕を表示できます
自閉症や自閉症スペクトラム障害(ASD)という用語は、他の子供のように外界と交流することが難しい子供に対して用いられる。
自閉症スペクトラム障害の特徴には、社会的な交流の困難・コミュニケーションの困難・反復行動などがある。
しかし自閉症の診断は単純ではなく、診断者の経験・感覚や家族の主張にも左右される。
自閉症の原因
遺伝要因と環境要因
自閉的特性が遺伝することや、自閉症スペクトラム障害と自閉的特性が関連しているという証拠がある。
自閉症スペクトラム障害の報告が最近急増している理由は、自閉症の定義を変更したことや人々の意識の高まりも一因かも知れない。しかし、実際に増えていることを示唆する証拠もある。
そのため、自閉症を増加させた可能性のある環境要因に注目が集まっている。
妊娠中の母親の喫煙と自閉症スペクトラム障害のリスクの関係についてはすでに多くの調査が行われているが、一貫した結果は得られていない。
世代を越えて影響するリスク
一方、母親の前の世代が子供(つまり孫)に影響を及ぼす可能性もある。
親がある環境にさらされた効果が世代を越えて影響する例は、多数の動物実験やヒトの複数世代にわたる調査で知られている。
ここ10年で、核やミトコンドリアのDNAの変異が、自閉症スペクトラム障害のリスクと結び付けられることが増えている。
DNA配列の変異は、親からそのまま受け継がれるか、あるいは配偶子や初期胚中で新たに発生する。
核ゲノムの点突然変異はたいてい精子内で生じ、これは男性の年齢とともに増加する。
実際、父親が高齢だと子供の自閉症スペクトラム障害や統合失調症のリスクが増加する。しかしある研究によれば、父親の年齢に関係するリスク増加のうち、新たな突然変異が占める割合はわずか10~20%程度である。
自閉症に遺伝的傾向があるとしても、必ずしも遺伝子のみが関わるわけではない。母胎内である環境にさらされた影響が世代を越えて伝わり、自閉症のリスクを増加させる可能性もある。
Jean Golding氏らの研究では、祖母の喫煙が孫の自閉的特性と関係しているかどうかが調べられた。
14000人の子供の記録を調査
「エイボン・両親と子どもの縦断調査研究(ALSPAC)」では14000人の子供を出生時から追跡して、様々な年齢で特性を記録している。
本研究ではそのうち、自閉症と関係する
・社会的コミュニケーション
・発話の一貫性
・社交的気質
・反復行動
以上4つの特性と、祖母(F0,父方と母方両方)の喫煙との関係が調べられた。
さらに、子供(F2)の性別や母親(F1)の喫煙との関係も調べられた。
母方祖母の喫煙が孫に影響していた
・母方祖母(F0)の妊娠中の喫煙は、「社会的コミュニケーション」と「反復行動」について、孫(F2)に影響していた。影響は母親(F1)が喫煙していない場合に特に顕著だった。また男の子の孫(F2)より女の子の孫(F2)の方がはるかに強く影響を受けていた。
・母方祖母の妊娠中の喫煙は、孫が自閉症と診断されることとも関係していた。
・父方祖母の妊娠中の喫煙には、自閉症との関連が見られなかった。
祖母の妊娠中の喫煙により孫の自閉症リスクが高まるメカニズムはまだ不明だが、次の2つの可能性が考えられる。
・母から子に伝えられるミトコンドリアDNAの損傷
・後成的遺伝(epigenetic inheritance, DNAメチル化やヒストン修飾などによりDNA塩基配列以外の情報が世代を越えて伝えられる現象)
管理人チャールズの感想
まだまだわかっていないことも多いようですが、自閉症に対する理解が進むことで、自閉症の方々の生活がより良くなるよう望まれます。
※近年、ヒトの腸内細菌などの共生微生物(マイクロバイオーム)が自閉症と関連していることを示す研究もあります
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