健康な人のうんちを移植して腸内微生物相を変えることで、もしかすると様々な病気が治療できるようになるかもしれない。英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2019年4月に掲載されたDae-Wook Kang氏らの研究によれば、糞便移植など、体内の共生微生物を移植する治療によって、子供の自閉症の症状や胃腸の問題が長期間にわたって改善されることがわかったという。
アイキャッチ画像クレジット:Darryl Leja, National Human Genome Research Institute, National Institutes of Health [CC]
マイクロバイオームによる自閉症治療の新たな可能性
参考動画 | Biodesign Institute “The Gut Microbiome: Opening new possibilities for autism treatment”(英語のみ):本論文の共著者であるRosa Krajmalnik-Brown氏らが、腸のマイクロバイオーム(微生物叢)を利用した自閉症治療の新たな可能性などについて語っている。 多くの自閉症の子供が胃腸の問題を抱えており、また、抗生物質による治療で自閉症の症状が改善したとの研究報告があったことから、マイクロバイオームに着目し始めたという。
多くの研究によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ人では腸内微生物叢に異常がみられることが報告されており、腸のマイクロバイオーム(≒共生微生物群集、腸内フローラ)と自閉症的な行動との間に関連があることが示唆されている。
そのため、健康な人から腸内微生物を移植することによって腸のマイクロバイオームを改変することで、自閉症の子供の胃腸の症状や行動的な症状を改善できる可能性が注目されている。
マイクロバイオームによる自閉症治療の成功例
2017年に掲載された論文*では、抗生物質・胃酸抑制・腸の洗浄・糞便移植を組み合わせたマイクロバイオームの移植治療によって、胃腸の症状、自閉症に関連した症状、そして腸のマイクロバイオームが大きく改善されたことがすでに報告されていた。
*Microbiota Transfer Therapy alters gut ecosystem and improves gastrointestinal and autism symptoms: an open-label study
Dae-Wook Kang et al. https://doi.org/10.1186/s40168-016-0225-7
糞便移植治療から2年たった後でも、効果は持続していた
本研究の調査結果(赤が治療前、緑が治療終了時点、水色が治療終了から8週間後、紫が治療終了から2年後)。胃腸の症状の大半については、2年後でも治療の効果が持続していた。自閉症に関連する症状などでは、治療終了時点よりさらに改善が見られた指標もあった。(Dae-Wook Kang氏らの論文 [cc] より引用)
今回、Dae-Wook Kang氏らの研究では、この糞便移植治療を受けた同じ自閉症の子供たちの2年後の状態を調査した。その結果、
★胃腸の症状の大半については、2年たった後でも、治療の効果が持続していた。
★自閉症に関連する症状では、治療終了時点よりもさらに改善が見られた指標もあった。
★腸内微生物の多様性増加やビフィズス菌の相対量の増加など、マイクロバイオームの重要な変化も持続していた。
本研究によって、糞便移植などによる微生物叢の移植治療は、胃腸の問題を抱える自閉症の子供たちに対して、長期にわたって安全で有効である可能性が示唆された。
ただし、本調査はオープンラベルの試験(患者や医者が治療の内容を知っている試験)であったため、プラセボ効果(患者が、薬に効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善する効果)は否定できない。今後のさらなる研究が望まれる。
※糞便移植には適切な処理などが必要ですので、専門的知識のない方が自己判断で行うことはお控えください。
管理人チャールズの感想
この研究報告を見る限り、糞便移植治療によって、様々な症状が大きく改善されたようですので、マイクロバイオームによる治療には、個人的に大きな可能性を感じました。様々な研究によって脳と腸の関連が明らかにされつつあるようですので、自閉症に限らず、アルツハイマー病やパーキンソン病など色々な病気で、マイクロバイオームによる治療の新しい可能性が開かれているのかもしれません。
※マイクロバイオームがヒトの健康に及ぼす影響などについては、次の記事でも触れています。
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