2019年前半に話題になった生物学などの最新論文ニュースまとめ10選

2019年前半に世界的に話題になった論文・ニュース*をまとめました。生物に関係する話題や、健康・環境・テクノロジーなど、当サイトに関連する様々な分野の最新研究を取り上げています。

ソースの学術論文の大半はオンラインで無料で閲覧できますので、より正確で詳細な情報を知りたい方はリンクから一次資料をご覧ください。

*当記事作成時点(2019年5月)でAltmetricの値が1801 ~ 8504の論文・ニュースを集めました。

死んだブタの脳を一部再生させることに成功

参考動画|Bloomberg Markets and Finance :本研究の概要を解説したニュース報道

イェール大学の研究者らが死後4時間経過したブタの脳を一部回復させることに成功。死の定義を揺るがしかねない研究成果であり、医療への応用が期待されると同時に倫理的な問題提起もなされているようです。

Vrselja, Z., Daniele, S.G., Silbereis, J. et al. Restoration of brain circulation and cellular functions hours post-mortem. Nature 568, 336–343 (2019). https://doi.org/10.1038/s41586-019-1099-1

世界で昆虫が急速に減少中

参考動画 | Al Jazeera English:本研究の概要を解説したニュース報道

世界の昆虫種の半数近くが急速に減少しており、3分の1は絶滅の危機に瀕しているとの警告がレビュー論文にて発表されています。主な原因は農地への転換といった生息地の変化と考えられ、他にも農薬や化学肥料などによる汚染や、侵入種・気候変動などが影響しているようです。

※2017年にも、大規模な昆虫の減少を報告した論文が話題となりました。

⇒ 2017年話題になった生物学の最新ニュース・論文まとめ10選

Sánchez-Bayo, F. and Wyckhuys, K.A., 2019. Worldwide decline of the entomofauna: A review of its drivers. Biological Conservation, 232, pp.8-27. https://doi.org/10.1016/j.biocon.2019.01.020

除草剤グリホサートへの曝露は、がんのリスク増加と関連

参考動画 | Al Jazeera English:アメリカの裁判所が、除草剤「ラウンドアップ」を販売したモンサントに対して末期がん患者へ約320億円の支払いを命じたことを報じるニュース動画

モンサント社(現バイエル社)の商品名「ラウンドアップ」で知られる除草剤グリホサートは世界中で広く使用されていますが、その健康・環境への影響については議論が続いています。

本論文ではメタ解析の結果、グリホサートを成分とする除草剤にさらされることが、リンパ系のがんである非ホジキンリンパ腫のリスク増大と関連していることが示されたようです。

※2018年にはグリホサートがミツバチの腸内細菌をかく乱することで間接的に悪影響を及ぼしている可能性が報告され、注目を集めました。

⇒ 2018年に話題になった生物学などの最新論文ニュースまとめ10選

2019年には次の論文も話題になりました。

⇒ 除草剤グリホサートに世代を越える毒性のリスクかーラット動物実験の結果

Zhang, L, Rana, I, Shaffer, RM, et al. Exposure to glyphosate-based herbicides and risk for non-Hodgkin lymphoma: a meta-analysis and supporting evidence. Mutat Res 2019; 781: 186206. https://doi.org/10.1016/j.mrrev.2019.02.001

マンモスの化石から取り出した細胞核が動いた

参考動画|Mashable:本研究の概要を解説したニュース報道

近畿大学の研究者らが、シベリアの永久凍土で見つかった2万8千年前のマンモスの化石から細胞の核を取り出してマウスの卵子に移植したところ、動きを確認できたようです。マンモスのクローン誕生までの道のりはまだ遠そうですが、一歩前進、とのことです。

参考動画|毎日新聞:マンモス細胞核に生命現象、分裂初期の動きを観察

Yamagata, K., Nagai, K., Miyamoto, H. et al. Signs of biological activities of 28,000-year-old mammoth nuclei in mouse oocytes visualized by live-cell imaging. Sci Rep 9, 4050 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-40546-1

幹細胞移植でHIVが消滅、2人目の症例

参考動画 | ITV Newsによるニュース報道

エイズの病原体であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対して耐性を持つドナーから幹細胞の移植を受けることによって、患者からHIVが消滅したようです。世界で2人目の症例とのことです。

HIVが白血球に侵入するために利用する白血球表面の受容体CCR5に変異があることにより、HIV耐性が生じているようです。

※2018年には、このCCR5遺伝子をゲノム編集によって改変した赤ちゃんを中国の研究者が誕生させ、国際的に批判が集中しました。

⇒ 世界初の遺伝子編集ベビーを誕生させた中国研究者、自ら語る【動画】

2019年にはゲノム編集を利用したHIV治療について、次のような研究も発表されています。

⇒ HIVの除去にマウスで成功ー抗ウイルス薬とゲノム編集を併用、完治治療へ向け一歩前進か

Warren M. Second Patient Free of HIV After Stem-Cell Therapy. Nature (2019). Available online at: https://www.nature.com/articles/d41586-019-00798-3 (accessed March 23, 2020)

MMR(3種混合)ワクチンで自閉症のリスクは増加しない

参考動画|CBS 17:本研究の概要を解説したニュース報道

麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風疹の新3種混合(MMR)ワクチンの接種によって自閉症のリスクは増加しない、との結果がデンマークで生まれた子供65万人以上を調査した最新研究で報告されています。

MMRワクチンと自閉症の関連を指摘して物議を醸したウェイクフィールド氏の論文は2010年にすでに完全に撤回されていますが、ワクチンをめぐる社会的な混乱はいまだに続いているようです。

2019年の関連研究 ⇒ 糞便移植治療で自閉症の症状が長期にわたり改善ー最新研究

Hviid A, Hansen JV, Frisch M, et al. Measles, Mumps, Rubella Vaccination and AutismA Nationwide Cohort Study. Ann Intern Med. 2019;170:513–520. [Epub ahead of print 5 March 2019]. doi: https://doi.org/10.7326/M18-2101

植物の遺伝子を改変して光合成効率の向上に成功

参考動画|IGBIllinois:本研究の概要を論文の著者らが解説した動画

イリノイ大学の研究者らが、植物のタバコの遺伝子を改変することによって、光合成の効率を高めて生産量を40%高めることに成功したようです。

光合成により生み出される有害な副産物などを処理するプロセスである光呼吸を効率化するショートカットを作成したとのことで、将来的には米や小麦・大豆といった作物の生産量増大への応用が期待されます。

Paul F. South, Amanda P. Cavanagh, Helen W. Liu, Donald R. Ort. Synthetic glycolate metabolism pathways stimulate crop growth and productivity in the field. Science, 2019; 363 (6422): eaat9077 DOI: 10.1126/science.aat9077

3Dプリントで人工心臓の作成に成功

参考動画|Washington Post:本研究の概要を解説したニュース報道

イスラエル・テルアビブ大学の研究者らが、3Dプリンタによって患者自身の細胞などを素材にした人工心臓を作ることに成功しました。拒絶反応を起こさないなどのメリットがあると考えられているようです。この論文については次の記事で少し詳しく取り上げています。

⇒ 3Dプリンタで人工心臓の作成に成功、患者自身の細胞などを素材にー最新研究

関連記事 ⇒ サイボーグ技術が現実に!機械と人間の融合ー最新テクノロジー動画集

Nadav Noor, Assaf Shapira, Reuven Edri, Idan Gal, Lior Wertheim, Tal Dvir. 3D Printing of Personalized Thick and Perfusable Cardiac Patches and Hearts. Advanced Science, 2019; 1900344 DOI:10.1002/advs.201900344

人工知能AIが脳の情報を解読して言語化に成功

参考動画 | UCSF Neurosurgery:本研究の概要を解説した動画

カリフォルニア大学の研究者らが、脳活動の信号を解読して、音声を合成することに成功したようです。被験者に文章を声を出して読み上げてもらったときの脳活動を記録したあと、人工知能によって唇・顎・舌・喉の動きと関連する脳の信号を復号化したとのことです。

将来的には、脳梗塞や、全身の筋肉が動かなくなるALSなどによって話すことができくなった人たちのコミュニケーションツールの開発が期待されます。

2019年の関連研究 ⇒ ヒトとラットの脳を接続してサイボーグ化したラットの歩行を操作ーマインドコントロール最新技術

ブレインマシンインターフェースや人工知能・脳に関する研究は次の記事でも取り上げています。

⇒ 脳で機械を直接操作するBMIで将来「心のプライバシー」が問題に?最新動画集

⇒ 人工知能AIが脳を解読して、心の中のイメージの画像化に成功

Anumanchipalli, G.K., Chartier, J. & Chang, E.F. Speech synthesis from neural decoding of spoken sentences. Nature 568, 493–498 (2019). https://doi.org/10.1038/s41586-019-1119-1

北磁極が予想以上の速さで移動中、原因は不明

参考動画|RT America:北磁極がロシアに向かって急速に移動していることを報じたニュース動画

固定した北極点とは異なり、コンパスが指す北である「北磁極」は常に移動していますが、近年その速さは想定を超えており、現在はシベリアに向かっているようです。

参考動画|Tech Insider:北と南の磁極が逆転する現象(ポールシフト)がもしも起こったらどうなるか、などについて解説した動画

北磁極の移動速度が加速している原因は、科学者たちにとっても今のところ不明のようです。

2019年の関連研究 ⇒ 第6感?ヒトが地磁気を知覚できる証拠、脳波から発見ー最新研究

Alexandra Witze. Earth’s magnetic field is acting up and geologists don’t know why. Nature. 2019 Jan;565(7738):143-144. doi: 10.1038/d41586-019-00007-1

日本語版(ネイチャー・ダイジェスト)はこちらで読めます ⇒ 磁極の動きが速過ぎる!

2019年も、これからさらにどんな面白い論文が出てくるのか、今から楽しみです。可能な限り当サイトでも紹介できればと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

(2020年追記)※2019年の年間のAltmetricトップ100ランキングをもとに、面白いと感じた論文を新たに10本選んで、次の記事にまとめています↓

2019年話題になった最新科学論文・ニュースまとめ10選

※2020年の記事も追加しました↓

⇒ 2020年話題になった科学論文ニュースまとめ10選

ここ数年で話題になった他の研究はこちら!

⇒ 2017年話題になった生物学の最新ニュース・論文まとめ10選

⇒ 2018年に話題になった生物学などの最新論文ニュースまとめ10選

 

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