様々な種の特徴をあわせ持つ、奇妙な形態のカニの化石が見つかった。「カニらしさ」とは一体何なのか、考え直す必要があるかもしれない。米科学誌「サイエンス・アドバンシーズ」に2019年4月に掲載されたJ. Luque氏らの論文では、私たちが通常「カニ」として思い浮かべる典型的な形態とはかけ離れた、細長い体や大きな眼を持つカニの化石が報告されている。
「カニ界におけるカモノハシ」ー奇妙な化石の発見
参考動画:”Researchers discovered a ‘platypus of the sea.’ It’s cute — but it’s extinct” Washington Post様:本研究の概要を報じたニュース動画(英語のみ)
今回、J. Luque氏らの論文で報告された奇妙な形態のカニの化石は、コロンビアとアメリカで採集された白亜紀中期(約9500万年前)のもので、カニの学名はCallichimaeridae perplexaと名付けられた。学名は「困惑させる美しいキメラ」といった意味で、その不可思議な形態や、細部まではっきりと観察できる化石のきれいな保存状態、そして様々な種の特徴をあわせ持っていること(キメラとはギリシャ神話の怪物で、頭がライオン、胴体がロバ、尾がヘビ)などを反映した名前となっている。
腹面や脚の写真
腹面(A~E、H)、脚(F、G、I)の写真。スパナのようなハサミ(F)や、泳ぎに適したオール状の脚(G)などが見られる(J. Luque氏らの論文 [CC] より引用)
背面や眼の写真
背面 [左] と腹面 [右](A,B)、背面(C,D)、眼(E~J)。 大きな複眼などが見える(J. Luque氏らの論文 [CC] より引用)
化石をもとにした復元図
背面の甲羅(上図の薄い灰色)はロブスター、退化した脚(上図の青色)はヤドカリに似ているなど、様々な種の特徴をあわせ持っている。(J. Luque氏らの論文 [CC] より引用)
幼生の形態が成体になっても保持?
今回発見された奇妙なカニCallichimaeridae perplexaは小さくて(甲羅の幅が1cm未満)、オール状の足を使い活発に泳いでいたと考えられるという。小さくて紡錘状の体や、大きな保護されていない複眼など、幼生の形態が成体になっても保持されているように見える(メガロパ幼生、下の動画参照)。
参考動画:一般的なカニの一生(Amy Sauls様):卵からふ化した後、ゾエア幼生、メガロパ幼生を経て稚ガニとなる。
生物の個体発生において発達のタイミングや速度が変化することは「ヘテロクロニー(異時性)」と呼ばれ、幼生の形態が成体まで保持される幼形進化など、新しい形態の進化において重要な役割を果たしている可能性があるという。
泳ぎに適応した脚
カニの系統では、もともと穴を掘るためのシャベル状の足が変化して、泳ぎに適した足に進化する事象が何度か起こった可能性が示唆されているという。相同な器官ではないが、泳ぎに適した脚という点で相似した器官を持つ水生生物は他にもおり、収斂進化の例といえる。
「カニらしくない」形態のカニの仲間(左、A~H)と、泳ぎや穴掘りに適応した脚を持つ生物の例(右、J~Q)。中央(I)は今回化石で見つかった奇妙なカニCallichimaeridae perplexa(J. Luque氏らの論文 [CC] より引用)
カニの定義が曖昧に?
一般に、カニらしい形態は、あまりカニらしくない形態(細長い甲羅など)から進化したものと考えられている。しかし反対に、カニらしい形質が失われる進化も起きていたことが示唆されており、今回 Callichimaeridae perplexa の発見によって、「カニ」をどのように定義すべきかについては、再考が迫られるかもしれない。
管理人チャールズの感想
不可思議な形態のカニの化石について報告した面白い論文でした。論文の著者らによれば、熱帯は生物多様性の宝庫であるにも関わらず、甲殻類の化石の初期の歴史についてはほとんどわかっていないようです。今後も熱帯地域から興味深い化石がでてくるかもしれませんね。
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