マイクロプラスチックを海洋哺乳類の体内で発見、調査した全個体でー英最新研究

食物連鎖を通じて、私たちの体内に微小なプラスチック片が混入していたとしても驚くには当たらないかもしれない。英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2019年1月に掲載されたS. E. Nelms氏らの研究では、イギリスの海岸に打ち上げられたイルカ・クジラ・アザラシなど計10種・50頭の海洋哺乳類の消化管内を調べた結果、全ての個体でマイクロプラスチックが発見された。

アイキャッチ画像:Nelms et al. Investigating microplastic trophic transfer in marine top predators[CC]の図に日本語を追加

プラスチックごみ問題

参考動画:Kurzgesagt – In a Nutshell (国連環境計画とのコラボレーション)プラスチック汚染問題の概要をわかりやすく解説しています(日本語字幕あり

プラスチックの特性 = 分解されにくい

プラスチックは分解されにくい。このプラスチックの特性は、産業・商業的に利用する上で大きな利点である一方、プラスチックごみが海などの環境中に蓄積してしまうという難しい問題を生み出している。

海洋のプラスチックが分解されるまでの推定年数(出典:アメリカ海洋大気庁NOAAなど)。たとえば、釣り糸は分解されるまで600年かかると推定されている。クレジット:statista [CC BY-ND 3.0]

マイクロプラスチックとは?

参考動画 ”Why these plankton are eating plastic” | Vox(英語のみ):ニュースサイト「Vox」によるマイクロプラスチックの解説 ※注(動画の誤り):レーヨンはプラスチックではなく、セルロース系再生繊維です。

マイクロプラスチックとは、サイズが5mm以下の微小なプラスチックのこと。海洋のマイクロプラスチックの由来は、上の動画でも説明しているように、大きなプラスチックの破片、化粧品や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズ(スクラブ)、合成繊維製の衣類を洗濯した際に出るマイクロファイバーを含む生活排水など、様々だという。

マイクロプラスチックは微小であるため、動物プランクトンや魚介類、海鳥、大型海生動物など生物に取り込まれやすい。直接的な摂食に加え、下図のように食物連鎖を通したマイクロプラスチックの取り込みを示唆する研究もある(例えばNelms et al.,2018)。

動物プランクトン → 魚 → アザラシの食物連鎖によるマイクロプラスチックの取り込み

Nelms et al. Investigating microplastic trophic transfer in marine top predators[CC]の図に日本語を追加)

マイクロプラスチックに有害なPCB(ポリ塩化ビフェニル)が吸着したり、プラスチックに添加された可塑剤などが生体内で脱着することで生物に悪影響がおよぶ可能性を危惧する研究者もいる。しかし、これまでのところ、海洋哺乳類においてマイクロプラスチックの摂取と化学汚染物質の取り込みの直接的な因果関係を実証した研究はほとんどない。

本研究の調査結果

S. E. Nelms氏らの研究では、イギリスの海岸に打ち上げられた海洋哺乳類(イルカ・クジラ・アザラシなど)計10種・50個体の消化管内のマイクロプラスチックを調査した。

a:見つかったマイクロプラスチックの例ⅰ) ナイロン ⅱ)ポリエチレン ⅲ)ポリエチレンテレフタレート(PET)ⅳ)フェノキシ樹脂 b:見つかったプラスチック片の色 c:見つかったプラスチック片の大きさ d:見つかったポリマーの種類S. E. Nelms氏らの論文より引用)

調査した50頭全ての個体でマイクロプラスチックが見つかった。

★見つかった全てのプラスチック片273個のうち、261個が5mm未満だった。

★見つかったプラスチック片の一頭当たりの平均数は約5.5個だった。

考察

★調査個体はすべて歯と顎を用いる肉食性動物であり、歯の隙間から海水を排出する。そのため、マイクロプラスチックを海水から直接取り込んだのではなく、汚染された餌を捕食することで間接的に取り込んだ可能性が高いと考えられる。

★先行研究によれば約11~30%の魚がマイクロプラスチックを含んでいると考えられるが、それに比べると、今回見つかった海洋哺乳類一頭当たりのマイクロプラスチックの数(平均約5.5個)は少なかった。その理由としては次の3つの可能性が考えられる。

〇排泄物(糞)などと一緒にマイクロプラスチックも体外に排出されている可能性

〇先行研究では、コンタミネーションなどの調査不備によってプラスチック数が過大推定されていた可能性

〇本研究で、抽出作業中に紛失してしまったなど、全てのプラスチックを検出し損ねた可能性

マイクロプラスチックによる生物学的な影響がどれほどか(健康への悪影響があるかどうか、あるとしたらどの程度か、など)については、本研究だけでは、確固とした結論は何も導けない。今後のさらなる研究が必要である。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Nelms, S.E., Barnett, J., Brownlow, A. et al. Microplastics in marine mammals stranded around the British coast: ubiquitous but transitory?. Sci Rep 9, 1075 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-018-37428-3

管理人チャールズの感想

アザラシやイルカの体内で微小なプラスチック片が見つかったという、それなりにショッキングな内容を含む論文でした。このマイクロプラスチックが、私たち人間を含む生物に対して、一体どれほど影響を及ぼしうるのかについては、今後の研究を見守るしかないでしょう。ごみ問題を含めて、プラスチックとどのように関わっていくべきかについては、そう簡単に答えは出ないかもしれませんが、自分なりに考え続けながら、できる範囲で行動していきたいと思います。

※次の記事では、プラスチックに添加される可塑剤やPCB(ポリ塩化ビフェニル)が、ヒトの生殖能力に悪影響を及ぼすことを示唆する研究を紹介しています。

⇒ 家や食品に広く混入するプラスチック可塑剤でヒトと犬の精子が劣化かー最新研究

海洋のプラスチック汚染については次の記事でも少し触れています

2018年に話題になった生物学などの最新論文ニュースまとめ10選

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