ゲノム編集をハ虫類に応用するのはこれまで技術的に難しかったようですが、今回トカゲで成功したようです。
学術誌「セル・リポーツ」に2019年8月に掲載されたAshley M.Rasys氏らの研究では、CRISPR Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれるゲノム編集技術によって、アムールトカゲの狙った遺伝子を改変して、アルビノ(白化)個体を生み出すことに成功したようです。
さまざまな動物でゲノム編集技術が応用されている
これまでに、すでに多くの魚類・両生類・鳥類・ホ乳類で、ゲノム編集による遺伝子の直接的な操作が行われています。
一般的には、精子と卵が受精した直後の一細胞期の胚にゲノム編集に必要な要素を注入することで遺伝子操作を行うようです。
※ゲノム編集の概要については次の記事で解説しています
ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説
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しかし、ハ虫類では
・体内受精(受精のタイミングがわかりにくい)
・扱いにくい、柔らかい卵殻
・産卵前に胚発生が始まってしまう
などの特徴があるため、これまでゲノム編集技術をハ虫類に応用することは難しかったようです。
今回の動物実験で行われた、新しいゲノム編集の方法・手順
↑今回トカゲの実験で行われたゲノム編集の手順(Ashley M.Rasys氏らの論文[CC]より引用)
今回の研究では、麻酔手術によって、トカゲの卵巣内にある受精前の卵細胞にゲノム編集のための要素を注入したようです。
参考動画|Daily Mail:本研究でのトカゲの実験手順(麻酔・手術・注入など)の実演
遺伝子編集が成功して、アルビノのトカゲが誕生
↑ゲノム編集によって生まれたアルビノのトカゲと通常の個体(Ashley M.Rasys氏らの論文[CC]より引用)
遺伝子を改変することに成功して、産卵された卵からアルビノのトカゲが孵化したようです。
なぜアルビノ関連の遺伝子をターゲットに選んだのか?
今回、ゲノム編集のターゲットとして、チロシナーゼ遺伝子が選ばれた理由は、
・多くの脊椎動物にとって致命的でない
・アルビノになるため、ゲノム編集の結果が容易に判別できる
・アルビノに関連する目の病気を研究するモデル生物を作りたい
といった目的・背景があったようです。
今回の実験では、狙った遺伝子の改変効率はあまり高くなかったようですが、今後はこのトカゲ以外のハ虫類や、鳥類にもこの手法が応用できる可能性が期待されているようです。
管理人チャールズの感想
ゲノム編集のハ虫類への応用に成功したというニュースでした。ゲノム編集技術は、幅広い生物で応用が進んでおり、昨年は中国で、ゲノム編集によりHIV耐性を持つとされる赤ちゃんが生まれたニュースが大きな物議を醸していましたね。今後も目が離せない技術です。
Rasys, A.M., Park, S., Ball, R.E., Alcala, A.J., Lauderdale, J.D. & Menke, D.B. (2019) CRISPR-Cas9 Gene Editing in Lizards Through Microinjection of Unfertilized Oocytes. Cell Reports, 28(9):2288–2292.e3. DOI: https://doi.org/10.1016/j.celrep.2019.07.089 様々な生物へのゲノム編集の応用例やニュースは、以下の記事でも取り上げています。
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