ハトの羽に付くシラミの体色が、わずか4年間で様々な色に進化することが実験で鮮やかに示された。進化生物学論文誌「Evolution Letters」に2019年3月に掲載されたSarah E. Bush氏らの研究では、ハトの羽繕い行動によって、ハトの羽に寄生するシラミの体色が羽の色に合わせて急速に進化すること(≒適応放散)が実験により示された。
多様な生物種を生み出す「適応放散」とは?
様々な形状をしているダーウィンフィンチの嘴は、適応放散の代表例と考えられている
ガラパゴス諸島に生息する「ダーウィンフィンチ」と呼ばれる鳥では、近縁の種が様々な形のくちばしを持っている。たとえば、太いくちばしは種子を食べるために、細いくちばしは昆虫や食べるために、といったように、くちばしはそれぞれの食べ物に最適化しているようにみえる。
このダーウィンフィンチは、ダーウィンが進化論(自然選択説)を構築する上で重要な役割を果たしたと考えられているため、彼の名がつけられている。
同一種の生物が、様々な異なる環境に住むことで、それぞれの環境に適した形質を進化させて、多様な系統に分岐していくことを適応放散と呼ぶ。
適応放散は種の多様性を生み出す原動力と考えられており、ダーウィンフィンチはその代表例とみなされている。
適応放散に関するこれまでの研究は、(適応放散した後の)すでに多様化した種を調べていた。今回、Sarah E. Bush氏らの研究では、これまでとは逆のアプローチとして、同一の集団から多様化した子孫を生み出すことに実験で成功した。(≒ 本研究では、実験によって適応放散を引き起こすことに成功した)
実験材料には、宿主ー寄生者の関係であるハトとその羽に付くシラミが用いられた。実験の概要は以下の通り。
※以下の画像はすべてSarah E. Bush氏らの論文(Host defense triggers rapid adaptive radiation in experimentally evolving parasites, CC)からの引用
ハトの羽の色と似た体色のシラミは目立たない。左図のように白い羽上では、白いシラミは隠蔽的となる。
①ペイントでシラミの体色を変えて、ハトの羽繕いによる除去効果を確かめる実験
白いハトと黒いハトに、背中にペイントで白または黒を塗ったシラミをつける実験を行った。白い羽の上では、黒い個体が目立つことがよくわかる。
ハトは口ばしで羽繕いを行い、シラミを除去する。本実験では、口ばしに特別な器具をつけて、うまく羽繕いできないようなハトを作り出した(図Fの矢印)。器具をつけられたハトでは、48時間後にも、白く塗られたシラミと黒く塗られたシラミの数は変わらなかった。しかし、器具をつけられなかったハト(=羽繕いができるハト)では、48時間後に体色が目立つシラミの数がより少なくなっていた(図G)。つまり、口ばしによる羽繕いによって、色が目立つシラミが、目立たないシラミよりも多く除去されることがわかった。
②3色のハトにシラミを付けて、4年間(=60世代)にわたりシラミの体色変化を追う実験
白、黒、グレー(コントロール)の3色のハトに、一羽あたり25匹のシラミを付けて、4年間(=シラミ約60世代)にわたりシラミの体色変化を調べた。羽繕いが普通に行えるハトでは、白いハトに付いたシラミは色が劇的に明るくなった。また、黒いハトに付いたシラミは色が暗くなったが、変化はゆっくりだった。グレーのハトに付いたシラミの体色の明るさは変化しなかった(図A、B)。この結果はハトの羽の色の明るさに比例していると考えられた(図C)。さらに、グレーのハトを用いた別な実験でシラミの親世代と子世代の体色の明るさに相関がみられたことから、体色の変化は遺伝することが示唆された(図D)。
わずか4年で、シラミの体色は多様に変化した
白いハトに付いたシラミの体色の明るさについては、平均値が上がっただけでなく、ばらつきも増加していた。さらに、40世代で変化したシラミの体色の範囲は、数百万年を経て多様化したと考えられる近縁種の体色の領域にも一部到達していた。
まとめ
ハトの羽繕いによって隠蔽的なシラミの体色が選択されることで、様々な羽の色に応じて、様々な体色のシラミが急速に進化(適応放散)することが実験で示された。寄生者の多様性を生み出すメカニズムについての、新たな発見となった。
管理人チャールズの感想
生物の多様性を生み出す進化のメカニズムの一端を解明した興味深い論文でした。とてもわかりやすい実験で結果もはっきりしているので、教科書に載っていて学校で習うような模範的研究のように感じました。
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