女性は男性の匂いによって、彼女がいるか、それとも独り身なのかを区別できるのかもしれない。心理学論文誌「フロンティアーズ・イン・サイコロジー」に2019年2月に掲載されたMehmet K. Mahmut氏らの論文によれば、女性が男性のTシャツの匂いを嗅ぐ実験によって、独り身男性の方が、パートナーがいる男性よりも体臭が強いことがわかったという。
異性を匂いで判断する本能
ヒトは、好みの配偶者を見定めるとき、視覚に大きく頼っている。進化的な見方をすれば、顔の魅力にもとづいて配偶者を選ぶことは、質の高い配偶者を見つける上で有利な場合がある。たとえば、顔の魅力や顔の色が、その人の健康状態と関連していることを示した研究がある。しかし、ヒトは配偶者を選ぶとき、視覚だけではなく、嗅覚も利用している。
パートナーの匂いで、健康状態や遺伝子の相性がわかる?
ヒトは配偶者を選ぶとき、潜在的なパートナーの体臭も利用している。体臭は、潜在的なパートナーの健康状態や、遺伝子の相性(適合性)を示すシグナルになり得る。
健康については、たとえば、壊疽などの感染症や、糖尿病性ケトアシドーシスなどの病気を医者が診断するときには、患者の匂いを利用することが知られている。パートナーとの遺伝子的な相性については、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)*が体臭に影響することが知られている。たとえば、女子学生が男子学生のTシャツの匂いをかぐ実験によって、女性が自分と異なるMHCを持つ男性(つまり自分とは異なる免疫タイプを持つ男性)の体臭を好むことが示されている。ただし近年、自分と異なるMHCを好む配偶者選択は実際には起こっていないと主張する研究もある(Winternitz et al., 2017)。
*主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とは、病原菌への抵抗力など、免疫に関係する細胞表面のタンパク質のこと。
ヒトの体臭は、ホルモンなど様々な要因で変化する
ヒトの体臭は固定的なものではなく、食事やホルモン・月経周期など様々な要因によって変化する。たとえば、赤身の肉を食べることが、体臭の不快な匂いと関連していることを示した研究がある(ただしそれとは反対の結果を示唆する研究もある)。また、ある種のホルモンが、男性の匂いの質や魅力と関連していることを示唆する研究がある。さらに、女性の体臭に対する男性の好みは、ホルモンレベルが異なる女性の月経周期の段階によって変化することを示した研究もある。その研究では妊娠可能期間の女性の匂いの方が、男性により強く好まれた。
※ピルなどのホルモン避妊薬によって配偶者選択の好みが変化する可能性を指摘した研究もある(例えばA Alvergne et al., 2010)。
男性のホルモンは、結婚とも関連している?
ホルモンの研究では、主に女性の月経周期が注目されてきたが、男性のホルモンについての研究もある。たとえば、男性ホルモンである「テストステロン」のレベルが高い異性愛者の男性は、結婚している可能性が低いことを示した研究がある。
こうした先行研究をふまえて、本研究では、
「独り身か、パートナーがいるかによって、男性の体臭に違いがあるのではないか」という仮説を立てて、それを検証する実験を行った。
本研究の実験結果
18~35歳の異性愛者の女性82人が、18~35歳の男性91人(独り身46人、パートナーあり45人)の汗が染みこんだTシャツの匂い(=体臭)をかいで、匂いの強さ、セクシーさ、どれくらいその匂いが好きか、など計5項目を0~6点満点で評価した。また、同じ男性の顔写真についても、その魅力や男らしさなどを0~6点で評価した。
★独り身の男性は、パートナーがいる男性よりも体臭が強いと評価された。
★女性が男性の匂いをどれくらい好きかや、匂いのセクシーさの評価については、独り身の男性とパートナーがいる男性の間で違いはみられなかった。
★独り身の男性は、パートナーがいる男性と比べて、より男らしい顔だと評価された(パートナーありの女性が評価した場合のみ。独り身の女性が評価した場合は違いがみられなかった)。
★本実験では、男性ホルモンであるテストステロン自体は測定されていないが、独り身の男性の方がテストステロンが高いことを示した過去の研究と、矛盾しない結果となった。
まとめ
独り身の男性の方が、パートナーがいる男性よりも体臭が強いことがわかり、そして、女性はその男性の匂いの違いを嗅ぎ分けられることがわかった。進化心理学的な観点からみると、匂いを嗅ぎ分けられることで、例えば子連れの既婚者への求愛を避けられるといったメリットがあるのかもしれない。
管理人チャールズの感想
独り身男性の方が匂いが強いという、興味深い研究でした。ただし、今回の実験では、単に、独り身男性の方が不衛生だから臭いだけ(笑)といった可能性も排除できないようですので、あくまで予備的な研究結果と理解するのがよいかもしれません。今後のさらなる研究が楽しみですね。
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