私たちはリンゴを食べるたびに、無数の微生物を一緒に体内に取り込んでいるようです。
学術誌「フロンティアーズ・イン・マイクロバイオロジー」に2019年7月に掲載されたBirgit Wassermann氏らの論文によれば、リンゴに含まれている細菌の種類や量を調べた結果、リンゴを1個食べるときには、同時に約1億の細菌を取り込んでいることが判明したとのことです。
また、有機栽培と普通に栽培したリンゴでは含まれている細菌が異なり、有機栽培リンゴの方が細菌の種の多様性が高いことがわかったようです。
あなたの健康を左右するのは、腸内の微生物?
参考動画|TED-Ed:あなたの食生活がどのように腸の健康に影響するか(日本語字幕あり)
近年、腸などにいる共生微生物(マイクロバイオーム)がヒトの健康に大きく関わっていることが明らかにされつつあります。
生で食べる野菜や果物は、こうした微生物の供給源として、ヒトの健康に重要な役割を果たしている可能性があります。
しかし、野菜や果物の微生物についてのこれまでの研究は、病原菌など食の安全に重点が置かれてきたため、マイクロバイオームの全体像についてはまだ十分な知見は得られていないようです。
本研究では、世界中で広く食べられているリンゴに注目して、細菌の量や種類が調べられました。また、有機栽培と通常の慣行栽培のリンゴで違いがあるかどうかも調べられました。
リンゴの部位によって細菌の量が違った
1: stem(果柄)2: seed(種)5: calyx(がく)6: fruit pulp(果肉)7: peel(皮)(画像クレジット:Jan Sokol[CC])
↑リンゴの部位別の細菌の量。左が有機栽培(organic)、右が通常栽培(conventional)(Birgit Wassermann氏らの論文[CC]より引用)
リンゴの部位別にみると、果柄や種子で細菌の量が多く、果肉や皮では細菌が少ない傾向があったようです。
有機栽培リンゴ(オーガニック、organic)と、通常栽培のリンゴ(conventional)で、全体の細菌の量には違いは見られなかったようです。
有機栽培リンゴの方が、細菌の種の多様性が高かった
↑細菌の種の多様性の比較:有機栽培(organic)と通常栽培(conventional)のリンゴ (Birgit Wassermann氏らの論文[CC]より引用)
有機栽培リンゴの方が通常栽培のリンゴよりも細菌の種の多様性が高かったようです(がく部を除く)。
どんな種類の細菌がいたのか?
↑リンゴで見つかった細菌の種類 (Birgit Wassermann氏らの論文[CC]より引用)
有機栽培と通常栽培では、細菌の種類にも違いがみられました。
例えば、メチロバクテリウム属Methylobacteriumの細菌は、イチゴの香り成分の生合成を促す効果をもつことが知られているようですが、有機栽培リンゴの方で多く見つかりました(特に果肉と皮)。
一方、ラルストニア属Ralstoniaやエルウィニア属Erwiniaの細菌は、しばしば植物の健康に悪影響をもたすことが知られているようですが、通常栽培のリンゴで多かったようです。
リンゴ内に実際にいた細菌の画像
↑有機栽培リンゴの組織内で見つかった細菌の画像(A:果柄 B:果柄の根本 C:皮 D:果肉 E:種 F:がく)。果肉と種子では画像化が難しかったようです。 (Birgit Wassermann氏らの論文[CC]より引用)
まとめ
・リンゴの部位によって細菌の量や種類に違いがみられた
・有機栽培リンゴと通常栽培のリンゴでは細菌の総量には違いがみられなかったが、種の多様性は有機栽培リンゴの方が高かった
・有機栽培と通常栽培のリンゴでは細菌が大きく異なり、それぞれ特徴的な種を含んでいた
・1個のリンゴは約1億の細菌を含んでいた
マイクロバイオームの種の多様性が高いことで病原菌の繁殖が制限される可能性について報告した研究もすでにあるため、有機栽培リンゴの細菌の多様性の高さは、健康上のメリットにつながる可能性もあるようです。
管理人チャールズの感想
サンプルの数が少ないため予備的な結果と考えたほうがよいと思いますが、興味深い研究でした。
今回の論文には有機栽培と慣行栽培の違いについては大まかにしか記述されていませんでしたが、詳しい農法の違いや農薬の使い方、貯蔵時の条件など、具体的にリンゴの栽培・管理工程のどのプロセスが細菌の違いにつながっているのか、今後の研究で解明できれば面白そうですね。
プロバイオティクス(ヒトの健康に好影響を与える微生物)の存在なども、今後もしかすると農産物の栄養などを評価する上で指標の1つになってくるかもしれませんね。
マイクロバイオームに関する研究では、例えば最近次のような結果が発表されています↓
帝王切開で生まれた赤ちゃんでは、母親からの腸内細菌が伝わらず、病院の日和見病原菌が多く定着している事が判明したようです。抗生物質の影響も。https://t.co/ORnCGCKzqP
【健康】マイクロバイオームの破壊との関連が認められる分娩様式 | Nature | Nature Research: https://t.co/fpSXYPvs0T— ダーウィン・ジャーナル (@Darwin_Journal) September 28, 2019
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