マイクロバイオームとは?健康のためにあなたが知るべき5つの事実

腸内細菌・腸内フローラなどとして知られる「マイクロバイオーム」は、2007年に始まったヒトマイクロバイオームプロジェクト以降、生物学研究において最も注目されているトピックの1つのようです。

この記事では、管理人が見つけた解説動画を中心にして、ヒトの健康にとって重要と思われる、マイクロバイオームに関する5つの事実についてまとめみてみました。

アイキャッチ画像:腸内微生物環境の3Dモデル Courtesy of Pacific Northwest National Laboratory(creative commons)

マイクロバイオームとは?

参考動画:「バクテリアはどうやってあなたの体を支配しているか(”How bacteria rule over your body”)」 – マイクロバイオーム(Kurzgesagt – In a Nutshell):マイクロバイオームの概要についてわかりやすく解説したアニメーション動画日本語字幕あり

ヒトの体内と体表には、100兆以上の共生微生物が生息していると言われています。細菌を中心として、ウイルス、菌類な様々な微生物がいます。腸内細菌が特に注目されていますが、肌、口の中、膣など色々な部位に生息しています。ヒトにとって無害なもの、有益なもの、有害なものなど様々です。

これらの微生物を全て合わせたものをマイクロバイオータと呼ぶようです。

そして、このマイクロバイオータが含む遺伝子を全て合わせたものをマイクロバイオームと呼ぶようです。

※ただし、これら2つの用語は互いに区別なく使われることも多いようです。

この微生物の遺伝子を全て合わせたもの(=マイクロバイオーム)は、ヒトの全遺伝子数の150倍にもなるようです。つまり、遺伝子の数でいえば、私たちの体を動かしている全遺伝子のうち、私たち自身の遺伝子が占める割合は、たった0.5%ほどに過ぎないのです。私たちは微生物によって生かされているといっても過言ではないのかもしれませんね。

以下、マイクロバイオームと健康に関する5つの事実です。

1、マイクロバイオームは様々な病気と関係しており、あなたの脳や行動にさえ影響を与える

マイクロバイオームは例えば、肥満、ニキビ、喘息、アレルギー、アトピー、糖尿病、多発性硬化症、がん、自閉症、うつ病、アルツハイマー病など、様々な病気との関連が指摘されています。

肥満とマイクロバイオームの関連を示したマウス実験

参考動画:「ヒトの腸内微生物によってマウスは痩せる」”Human gut microbes slim mice” (Washington University in St. Louis)(英語のみ)

一方はやせており一方は肥満である、人間の双子の腸の共生微生物をそれぞれ無菌マウスに移植した実験の結果、健康的な食事を与えられた場合、やせた人から微生物を移植されたマウスはやせたままだった一方、肥満の人から微生物を移植されたマウスでは体重が増加して太り、インスリン抵抗性に関わる代謝の問題が発生したそうです。

さらに、2匹のマウスを一緒にして互いの腸内にどちらの微生物が侵入できるか実験で調べたところ、その結果は食べ物によって変わることがわかりました。

飽和脂肪が少なく野菜・果物が多い健康的な食事を与えられた場合は、肥満の人由来の微生物を移植されたマウスは、やせた人由来の微生物が腸内に侵入したため、体重増加が防止できました。しかし、飽和脂肪が多く野菜・果物が少ない不健康な食事を与えられた場合は、肥満の人由来の微生物を移植されたマウスは、やせた人由来の微生物が腸内に侵入・定着できなかったため、体重が増加してしまったようです。

関連論文: Vanessa K. Ridaura et al. Gut Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Mice. Science, 2013; 341 (6150): 1241214 DOI: 10.1126/science.1241214

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がん治療にマイクロバイオームが役立つ?

参考動画:「マイクロバイオーム:腸内細菌はどのようにがん治療に役立ちうるか」”The microbiome: how might gut bacteria help treat cancer?”(Cancer Research UK):(英語のみ)

腸内細菌は、治療に対して、がんがどのように反応するかに影響を与えているかもしれません。患者の腸内細菌が変われば、がんに対する免疫療法の効果が高まる可能性があるようです。

糖尿病とマイクロバイオームの関連

関連動画:「2型糖尿病は腸内細菌が引き起こすかもしれない」”Type 2 diabetes may be caused by gut bacteria”(University of Copenhagen UCPH):(英語のみ)

近年増加している2型糖尿病は、もしかすると腸内細菌によって引き起こされるのかもしれません。

マイクロバイオームは脳や行動に影響を与える

参考動画:「心を変える微生物:マイクロバイオームはいかに脳と行動に影響するか」Mind-altering microbes: how the microbiome affects brain and behavior: Elaine Hsiao at TEDxCaltech (TEDx Talks)

ヒトの様々な行動や、多発性硬化症、自閉症、うつ病などとマイクロバイオームの関連について触れられています(日本語字幕あり

2、粉ミルク育児や帝王切開出産は、子供に健康上のリスクをもたらしうる

母乳のメリット

参考動画:「母乳について私たちが知らないこと」”What we don’t know about mother’s milk | Katie Hinde” (TED)(日本語字幕あり

母乳は例えば、子供の腸内細菌を育み、免疫上のメリットをもたらすことが知られています。

帝王切開出産のデメリット

参考動画:帝王切開出産のリスクに関する解説 ”The New Birth Trend That’s All About Bacteria – IBD in the News” (Mayo Clinic):(英語のみ)

帝王切開出産では、経膣出産よりも、子供の炎症性腸疾患(IBD)や喘息、アレルギーのリスクが高まるとの研究報告があるようです。帝王切開では母体の膣にいる細菌が子供に伝わらないことが原因と考えられていますが、膣の体液をしみこませたガーゼを新生児に塗り付けることで、母体由来の細菌をうまく定着させることができるかもしれない、とのことです。

3、抗生物質の過剰な使用には、健康上のリスクがある

参考動画 :抗生物質過剰使用の問題や耐性菌についてのわかりやすい解説 “The Antibiotic Apocalypse Explained” (Kurzgesagt – In a Nutshell)(日本語字幕あり

抗生物質は医療の歴史における革命的発明であり、これまでたくさんの人々の命を救ってきました。しかし一方で、近年、抗生物質は過剰に使用されています。

たとえば、風邪やインフルエンザは基本的に細菌ではなくウイルスが原因と考えられているため、抗生物質は効かないにもかかわらず、病院で処方されることがあります。また、畜産業で家畜に対して大量の抗生剤が使われることが問題視されているようです。

抗生物質の過剰使用がもたらす問題は大きく2つあります。一つは、抗生物質が効かない抗生物質耐性菌の出現を促すこと、もう一つは、抗生物質の使用によりマイクロバイオームがかく乱されることで個人の健康リスクが高まる可能性があることです。

抗生物質のメリット・デメリットをよく考慮したうえで、抗生物質の不要な使用を減らしていくことが必要とされているようです。

同様に、抗菌剤や現代社会の「清潔」は、場合によって有益なマイクロバイオームに悪影響を及ぼすことで、あなたの健康を損ねる可能性があります。全ての細菌が悪さをするわけでは決してなく、それどころか、人間の健康にとって欠かせない細菌も少なくないと思いますので、状況に応じて冷静に判断することが大切かもしれませんね。

※原則として、抗生物質は医師や薬剤師の指示や相談のもとで、必要な場合に、適切な量を適切な期間、服用して下さい。自己判断のみで服用を途中でやめたりすると、耐性菌を増やす原因となる可能性がありますのでご注意下さい。

4、あなたが食べたものは、マイクロバイオームを通してあなたの健康に影響する

参考動画:「あなたの食生活がどのように腸の健康に影響するか」 – シルパ・ラヴェラ (TED-Ed)日本語字幕あり

フランスには「あなたが何を食べているか言ってごらん、そうすればあなたがどんな人物か当ててあげよう」といった内容の諺があるそうです。上の動画では、健康のために腸内細菌の多様性を維持する方法の一般論の1つとして、果物や野菜に含まれる食物繊維や、加工が最小限の新鮮な食品の摂取などを推奨しています。

5、糞便移植など新しい治療法が試されつつある

糞便バンク「オープンバイオーム」

参考動画:「あなたのうんちが誰かの命を救うかもしれない」”Your Poop Could Save Someones Life | VICE on HBO”(VICE News):(英語のみ)

糞便の中身の大半は、細菌だと言われています。近年、ある種の感染症を治療するために、患者に健康な人の糞便を移植する医療行為が大きな成果を上げています。「オープンバイオーム」という非営利の糞便バンクでは、適正審査を通過した糞便提供ボランティアに対して、一回につき40ドルの報酬が与えられているそうです。

自閉症患者への糞便移植

参考動画:「糞便移植は自閉症の子供たちを助けられるか?」”Can fecal transplants help children with autism? “(Fox News)(英語のみ):糞便移植によるマイクロバイオームの移植によって、自閉症の子供の胃腸障害や行動などに改善が見られたとするニュース報道です。

他にもプロバイオティクス(=適量ならば健康上の利益がある、生きた微生物)やプレバイオティクス(=有益な微生物を増やすような「細菌の餌」)などが新たな病気の治療法として注目されているようです。今後のさらなる研究でどんなことが明らかにされるか、楽しみですね。

参考文献:アランナ コリン著 あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた(河出書房新社)Amazonへのアフィリエイトリンクを含んでいます

読みやすい翻訳で、マイクロバイオームとヒトの健康について幅広い視点からわかりやすくまとめられていると思います。

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