Altmetric社が2019年に世界的に話題になった論文トップ100のランキングを発表しています。
当記事ではその中から、管理人の独断と偏見で面白いと感じた研究論文を10本ご紹介します(出典論文リンク付き)。
第94位 痛みを感じないという珍しい女性の遺伝子を解明
参考動画|NBC News:痛みや不安を感じないという稀有な女性、ジョー・キャメロンさんについて報じたニュース動画。
痛みを感じないため、自分の腕を火傷した時に、肉が焼ける匂いで初めて気づくということもあったようです。痛みを感じない原因と考えられる遺伝子変異が本論文で発表されました。
詳しくは次の記事で取り上げています
⇒ 痛みや不安・恐怖を感じない!?驚愕の女性の原因遺伝子を解明ー最新研究
アメリカでは、医師が処方するオピオイド鎮痛薬への依存症・中毒死が深刻化しており「オピオイド危機」として社会問題になっています。
関連記事 ⇒ 米オピオイド危機、製薬会社の創業者に禁錮5年6月
参考動画|TED:オピオイド離脱症状や医療体制の問題についての体験談(日本語字幕あり)
こうした背景もあり、本研究の知見が痛みの緩和などで医療への応用に役立つことも期待されているようです。
2019年の関連研究
⇒ 昆虫にも痛覚があり、ケガ後に慢性痛を感じている可能性が実験で判明ー最新研究
第81位 HIVの除去にマウスで成功
参考動画|USA TODAY:本研究を報じたニュース動画
ゲノム編集技術と抗ウイルス薬を組み合わせることで、マウスからHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を取り除くことに成功したようです。
詳しくは次の記事で取り上げています
⇒ HIVの除去にマウスで成功ー抗ウイルス薬とゲノム編集を併用、完治治療へ向け一歩前進か
第80位 リンゴ1個は、およそ1億の細菌を含んでいるらしい
参考動画|WTAJ TV:本研究を報じたニュース動画
私たちが1個のリンゴを食べるときには、およそ1億の細菌も取り込んでいるらしい、との推定が発表されています。
また、有機栽培のリンゴの方が慣行栽培のリンゴよりも細菌の種の多様性が高いことがわかり、そのことが食べる人の健康に寄与している可能性もあるようです。
詳しくは次の記事で取り上げています
⇒ リンゴに1億の微生物、細菌の多様性は有機栽培の方が高いと判明ー健康にメリット?
第75位 牛にシマウマの縞模様をペイントして虫よけに成功
黒毛の牛に白い塗料を塗ってシマウマのような模様にすると、通常の状態の牛と比べて、アブなどの虫が寄ってこなくなるという研究結果を、愛知県の農業総合試験場などがまとめました。https://t.co/ftEd2E3C62#nhk_news #nhk_video pic.twitter.com/z9JxI7M0CA
— NHKニュース (@nhk_news) November 15, 2019
近年、シマウマの縞模様にはアブなどの吸血昆虫を回避する役割があるという仮説を支持する研究結果が報告されています。
本研究もその知見を応用したもののようで、殺虫剤に代わる環境にやさしい家畜保護方法として期待できるかもしれないとのことです。
2019年の関連研究
⇒ シマウマが縞を持つ理由は?縞模様の服を馬に着せる実験で新たな証拠ー最新動物研究
⇒ 先住民族のボディペイントの謎、シマウマの縞模様と共通する生存上の意外なメリットとは?ー最新研究
2020年にはウシに目玉模様を描いた研究が話題になっています。
第69位 ミトコンドリアは父親から受け継がれることもある?
【父親由来のミトコンドリアがたどる運命 | Natureダイジェスト4月号】ミトコンドリアのDNAは、母親の卵細胞のみに由来すると考えられていたが、稀に父親のものも子に伝わることが示された。父親由来ミトコンドリアの排除に関わる常染色体上の遺伝子との関連が示唆される。 https://t.co/wHnvxqI29Q
— Nature ダイジェスト/編集部 (@NatureDigest) March 29, 2019
「ミトコンドリアは母親からしか伝わらない」というのがこれまでの生物学の一般的な定説だったと思うのですが、本研究では、まれに父親のミトコンドリアも子に伝わる可能性が示されたようです。
ただし、本論文の結論に対しては反対意見・批判もでており、議論が行われているようです。
第66位 ゲノム編集の新技術「プライム編集」では、意図しないオフターゲット効果を低減できうる
ICYMI (or were teaching like me), breakthrough from @liugroup / @davidrliu @broadinstitute on “Prime editing” (and I don’t use breakthrough lightly). They engineered Cas9 (below) to avoid unwanted #CRISPR side reaction in #GeneEditing https://t.co/ESeZMP03hd pic.twitter.com/avOOqnVugY
— ACS Chemical Biology (@ChemicalBiology) October 22, 2019
新しいゲノム編集技術「プライム編集(prime editing)」では、従来のCRISPR-Cas9とは違ってDNA二本鎖切断やドナーDNAを必要とせず、狙った場所以外への意図しない影響(オフターゲット効果)を低減できたり、遺伝子編集の正確性や効率性を向上させることが可能なようです。
CRISPRやプライム編集などゲノム編集の概要は、次の記事でも触れています
⇒ ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説
第38位 週に2時間以上自然の中で過ごすことは、健康に良いかもしれない
参考動画|Blue Health:論文の著者Mathew White博士が研究の概要を解説。
所得が高くて大部分が都市化された社会では、自然にたくさん触れることが健康と関連しているという証拠が増えつつあるようです。
本研究では、イングランドの約2万人のデータを調べた結果、週に2時間以上自然で過ごすことが、良好な健康状態や幸福感(ウェルビーイング)と関連していることがわかったようです。
ちなみに自然で過ごす2時間は、一回にまとめてでも、小分けにしてでも(たとえば30分を4回など)、違いは見られなかったとのことです。
第12位 量子超越性の実証に成功した、とグーグルが発表
参考動画|Google:本研究の概要(量子超越性の実証)についての解説動画
「量子超越性」とは、大雑把に言えば、従来型のコンピュータでは不可能だったことが量子コンピュータでは可能になる、というようなことを意味するようです。
本研究では、最先端のスーパーコンピュータでも1万年かかる計算を、量子コンピュータを使って約3分20秒で解けた、として量子超越性が実証できたと発表されています。
ただし、この発表に対しては、たとえばIBMなどが反論するなど、議論が行われているようです。
関連記事 ⇒ グーグルが主張する「量子超越性の実証」に、IBMが公然と反論した理由
参考動画|TED:量子コンピュータについてのわかりやすい解説(日本語字幕あり)
将来、量子コンピュータが応用されうる領域として、暗号化(セキュリティ)、医薬品開発(分子シミュレーション)、効率的なデータ送信(情報のテレポーテーション)といった例が上の動画では挙げられています。
第10位 落とした財布は、中の現金が多いほど戻ってくる確率が高い
人々の正直さと利己性について大規模に調査した、経済学と心理学にまたがる研究です。
世界40か国で、様々な金額の現金が入った17000個以上の財布を落とす実験を行った結果、ほとんどの国で、中の現金が多く入っている財布ほど戻ってくる確率が高いことがわかったようです。
A great study of impersonal honesty using the lost wallet paradigm in 355 cities spanning 40 countries (17,000 lost wallets). Big variation across cities, but (almost) everywhere people were MORE likely to return the wallet when it had MORE money in it. @MichelAMarechal pic.twitter.com/I4RyyAp2Sg
— Joe Henrich (@JoHenrich) June 20, 2019
↑財布が戻ってくる確率が最も高かったのはスイスだったようです。日本は不参加。
An incredible (and hopeful) new study on honesty:
Across 40 countries, people are more likely to return planted wallets when they contain money, esp a lot of money.
A pattern economists didn’t predict, and consistent with broad altruistic concern. https://t.co/SgjpekeRWQ pic.twitter.com/a3SGxsmdip
— Jamil Zaki (@zakijam) June 20, 2019
↑財布の中身の金額が高いほど返却率が高いというデータも。
今回の結果でみられた正直な行動は、一流のアカデミックな経済専門家の事前予想とも反していたようです。
この結果を説明できうる要因としては、財布の持ち主への利他的な配慮や、自分を泥棒としてみることへの嫌悪感(心理的コスト)などが考えられているようです。
関連記事 ⇒ 心理学の面白い研究論文まとめ
第1位 しゃべるモナリザが登場:人工知能がたった1枚の画像から話す顔を生成
参考動画|The Telegraph:人工知能により生命を吹き込まれた、ダ・ヴィンチ作の絵画「モナリザ」がしゃべっています。
参考動画|本論文の著者Egor Zakharov氏によると思われる、研究の概要の解説
しゃべる顔を生成するために、従来は、一人の顔の大量の画像データセットによる訓練が必要だったようです。しかし本研究では、少ない数枚の画像、場合によってはたった一枚の画像だけからでも、しゃべる顔を作り出すことに成功したとのことです。
上の動画では、目、眉毛、鼻、口、輪郭といった顔の要素をソースから抽出して、ターゲットの顔にあてはめている様子が確認できます。
※人工知能のこのような技術を利用して、動画中の人物の顔を巧妙に入れ替えたり、実際には話していないことを話させたりできる「ディープフェイク」については、次の記事でまとめています。
⇒ ディープフェイクとは?偽動画の例や仕組み・作り方・危険性などをまとめて紹介
以上、2019年の面白い科学論文・ニュースまとめ10選でした。最後までご覧頂きありがとうございました!
※2020年に話題になった研究論文は以下にまとめています。
2020年の論文は、例年以上に物議をかもしている研究が多くなっています。
過去に話題になった研究については以下の記事でも触れています。
⇒ 2017年話題になった生物学の最新ニュース・論文まとめ10選
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