CRISPR/Cas9遺伝子ドライブに「抵抗性」の壁【マラリア解説動画あり】ー最新研究

マラリアなどの病気を媒介する蚊や外来生物を駆除できる可能性を持つ期待の新技術「遺伝子ドライブ」は、このままだと挫折してしまう可能性がある

学術雑誌「プロス・ジェネティクス」に今週掲載されたJackson Champer氏らの最新研究によって、遺伝子ドライブに対する抵抗性(耐性)遺伝子の問題が浮彫りになった

遺伝子ドライブとは?

TEDの動画「1つの生物種全体を永久に変えてしまう遺伝子編集技術」(日本語字幕付き

「遺伝子ドライブ」とは、改変した遺伝子を急速に集団中に広めることによって、病原体を運ぶ昆虫(マラリアを媒介する蚊など)や外来の侵入種を駆除したりコントロールできる可能性を持つ技術だ。

遺伝子ドライブは精度の高い簡便なゲノム編集技術CRISPR/Cas9によって実現した技術で、通常のメンデル遺伝の50%よりも高い確率で改変した遺伝子(例えばマラリアの増殖・伝播を防ぐ遺伝子)を子孫へ伝達させることができる。

マラリアへの応用

Kurzgesagt – In a Nutshellの動画 ― 遺伝子ドライブとマラリアの概要説明(日本語字幕付き

WHOの報告によると、2015年の推計でマラリアの発症例は2億1200万件・死亡者は42万9000人で、マラリア原虫の薬剤抵抗性の急速な進化などが問題となっている。

いくつかの研究ではマラリアの伝染を抑える改変遺伝子を蚊に持たせるといった試みにすでに成功している他、デングウィルスを媒介する蚊や外来の農作物害虫に対する応用も期待されている。

遺伝子ドライブに対する「抵抗性(耐性)」

ネッタイシマカ

このようにCRISPRによる遺伝子ドライブ技術がある程度機能することはすでに実証されているものの、遺伝子ドライブによる操作ができない「抵抗性(耐性)」遺伝子の出現が大きな障害となっている。

抵抗性遺伝子の形成には様々なメカニズムが考えられる。たとえば、DNA切断後に相同組み換え修復ではなくて末端同士の結合が起こると、標的のDNA配列が変わってガイドRNAに認識されなくなるため、抵抗性遺伝子となりうる。また、こうした抵抗性遺伝子は受精前の生殖細胞系列だけでなく、受精後の胚段階でも生じる可能性がある。

※DNAの切断・修復などゲノム編集の基本原理については次の記事で解説しています。

⇒ ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説

理論的な研究によれば、遺伝子ドライブによって特定の遺伝子を効果的に集団中に広めるには、抵抗性遺伝子の出現率をかなり低く抑える必要がある。

しかしChamper氏らの研究によると、モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いた実験の結果、高い確率で遺伝子ドライブに対する抵抗性遺伝子が形成されることがわかった。

さらに、遺伝的に多様な系統間では、遺伝子ドライブによる遺伝子の変換効率や抵抗性の出現率にかなりの違いがみられた。

そのため、特に遺伝的に多様な野外個体群に応用する際には、CRISPRによる遺伝子ドライブの現在のアプローチの有効性は、抵抗性の進化によって大きく制限されてしまう可能性が高いChamper氏らの研究は結論付けている。

管理人チャールズの感想

ビルゲイツも遺伝子ドライブを利用したマラリアの撲滅運動に出資しているようですが、実際に野外個体群に応用して効果が得られるまでの道のりはなかなか厳しそうです。

病原菌の薬剤抵抗性、害虫の農薬抵抗性などと同様、抵抗性が一旦現れると、それが少しでも生存に有利な場合は急速に広まることが原理上避けがたいように思うので、これらにいかに対処していくかは重要な課題でしょう。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Champer J, Reeves R, Oh SY, Liu C, Liu J, Clark AG, et al. (2017) Novel CRISPR/Cas9 gene drive constructs reveal insights into mechanisms of resistance allele formation and drive efficiency in genetically diverse populations. PLoS Genet 13(7): e1006796. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1006796

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