私たち人間を含めて、動物は一体なぜ眠るのだろう?睡眠の役割について新たな仮説が登場した。英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に2019年3月に掲載されたD. Zada氏らの研究では、睡眠によって、損傷したDNAの修復に必要な染色体の動きが神経細胞で増加することがわかった。
動物はなぜ眠るのか?
睡眠は動物の生活にとって欠かせないものだ。これまで研究されてきたクラゲ、線虫、ショウジョウバエ、ネズミ、ゼブラフィッシュ、ヒトなど様々な動物はすべて眠ることが知られている。
参考動画:The Funny Ways That Animals Sleep | National Geographic (英語のみ):セイウチ、コウモリ、カバ、イヌ、トドなど様々な動物が眠っている様子が見られる。
哺乳類や鳥類では、寝ている時と起きている時で脳波パターンのサイクルが違うことや、行動の基準によって睡眠が定義されている。哺乳類以外の動物では、特徴的な姿勢のまま動かないなど、行動的な基準のみで睡眠が定義されているという。
参考動画:(丸山太一様)神秘的な寝ているマッコウクジラの姿🐳/Rare Sleeping Sperm Whale Vertically
2008年の論文で、マッコウクジラは縦に浮かんだまま動かない状態で眠っている可能性が報告されている。イルカなどでは脳が半分ずつ眠る「半球睡眠」が知られている。
※多数のマッコウクジラが縦に浮かんでいる神秘的なスライドショー写真がNational Geographicのサイトで閲覧できます。
睡眠の役割
睡眠が長い間奪われると死に至ることがある。また、睡眠を奪われることは脳のパフォーマンス低下とも関連している。
睡眠の役割については、高分子の生合成、脳の貯蔵エネルギーの回復、アミロイドβなど代謝老廃物の除去、シナプス可塑性、記憶の強化など、さまざまな仮説が提案されている。しかし、なぜ睡眠が進化したのか、眠りの根本的な機能についてはいまだにはっきりしていない。
睡眠が脳の一部で局所的に起こっている可能性、さらには、睡眠が数少ない細胞で起こっている可能性さえ示唆する証拠がある。しかし、細胞単位での睡眠を定義できるような信頼性の高い分子マーカーは見つかっていない。
今回、D. Zada氏らの実験では、モデル生物であるゼブラフィッシュを材料として遺伝子を操作したり薬を投与したりすることで、睡眠が個々の神経細胞(ニューロン)に及ぼす影響を調べた。
実験の結果:睡眠は損傷したDNAの修復に役立っているようだ
ゼブラフィッシュの脳の神経細胞における染色体の動き(上:昼 下:夜)
眠っている夜(下)のほうが染色体の動きが大きい。(D. Zada氏らの論文 [CC] の補足資料より引用)
ゼブラフィッシュは昼行性で、夜に眠る。今回の一連の実験により、ゼブラフィッシュでは眠ることによって神経細胞の染色体の動きが増加することがわかった。さらに、昼にはDNA二本鎖の切断が増加した一方、夜にはDNA二本鎖の切断が劇的に減少することが確認できるなど、様々な実験の結果により、睡眠による染色体の動きの増加は、損傷したDNAの修復に役立っていることを示す証拠が得られた。
管理人チャールズの感想
「なぜ動物は眠るのか?」という生物学上の大きな謎に対して、「損傷したDNAを修復するため」という斬新な仮説を提示した、非常にエキサイティングな研究でした。記事内ではあまり詳しく紹介しませんでしたが、実験の方法もしっかりしていて、十分に説得力のある結果が得られているように思えました。学問上の意義も大きく、全体的に大変レベルの高い研究だと感じました。
例えば看護師の方の夜勤のあり方など、人間における睡眠の効果や健康に関しても多くの示唆を与えてくれるかもしれません。今後のさらなる研究の進展がとても楽しみです。
睡眠については以下の記事でも触れています。
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