除草剤グリホサートに世代を越える毒性のリスクかーラット動物実験の結果

商品名「ラウンドアップ」で知られる除草剤グリホサートが人や動物の健康に及ぼす影響・安全性については、激しい議論が続いているようだ。英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2019年4月に掲載されたDeepika Kubsad氏らの研究によれば、ラットを用いた動物実験の結果、グリホサートにさらされた個体の孫世代、ひ孫世代で前立腺・腎臓・卵巣の病気や肥満、出産異常などが増加することがわかったという。

アイキャッチ画像:価格.comのページより引用

除草剤グリホサート(商品名:ラウンドアップ)とは?

グリホサート(化学名:N-ホスホノメチルグリシン)は、1950年に発見され、モンサント社(現・バイエル社)によって1970年代にその除草剤活性のために「ラウンドアップ」として商品化された。グリホサートは、おそらく世界で最も広く使用されている除草剤だという。

アメリカにおける農業でのグリホサート使用推定量(2015年):色が最も濃い地点では、1平方キロメートルあたり約15.5kg以上使用している。Deepika Kubsad氏らの論文[CC] の補足資料より引用)

グリホサートの作物別使用推定量:グリホサート使用量は近年増加傾向にあり、特にトウモロコシや大豆での使用が目立っている。Deepika Kubsad氏らの論文[CC] の補足資料より引用)

グリホサートの作用機構

グリホサートは、植物の芳香族アミノ酸代謝に関わる酵素(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素, EPSPS)を阻害することによって、タンパク質を欠乏させ、最終的に植物を死に至らしめる。

グリホサートが作用するこの生化学経路は、脊椎動物には存在しない。このことから、人体やその他の哺乳類に対するグリホサートの有害性は低いはずだという想定が導かれている。

※2018年の論文では、ミツバチの共生微生物(腸内細菌)がこの酵素(EPSPS)を持っているためにグリホサートの影響を受け、共生微生物がかく乱されることで間接的にミツバチが悪影響を受けている可能性が報告されています。

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グリホサートの毒性

しかし、グリホサートの毒性については、多くの矛盾する報告がある。2015年にIARC(国際がん研究機関)はグリホサートをグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類した。この分類に対しては批判的な意見もある(例えばBrusick et al.,2016)。

グリホサートへの直接的なばく露が自閉症などの病気と関連しているとの疫学研究報告もあるが、適切な動物実験や臨床試験はまだ行われていない。マウスやラットなど哺乳類を用いた動物実験では、グリホサートへの直接的なばく露によって、生殖毒性、出生異常、精子生産の減少などが報告されている(例えばGarry et al., 2002)。また、肝臓や精巣の病気、子宮の異常、卵巣でのステロイド生産の減少などを引き起こすとの報告がある。一方、ヒトについての少数の疫学研究を評価したレビュー論文では、グリホサートの直接ばく露によるヒトの発達・生殖へのリスクはないと結論づけている報告もあるという。

関連ニュース(2019年)

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グリホサートが世代を越えて影響する可能性

これまでの研究では、グリホサートの直接的なばく露が注目されてきた。しかし、継続的に直接ばく露されていない次世代への影響など、世代を越えたグリホサートの潜在的危険性を調べた研究はまだない。そこで、今回、Deepika Kubsad氏らの研究では、ラットを用いた動物実験で、子、孫、ひ孫など世代を越えるグリホサートの影響を調べた。

実験の結果:孫世代、ひ孫世代で病気などが増加

グリホサートの世代を越える影響の概念図Deepika Kubsad氏らの論文 [CC] の図を改変)

オスのラットの結果Deepika Kubsad氏らの論文 [CC] より引用)

メスのラットの結果Deepika Kubsad氏らの論文 [CC] より引用)

ラットを用いた動物実験の結果、妊娠中にグリホサートにさらされた個体の孫世代、ひ孫世代で前立腺・腎臓・卵巣の病気や肥満、出産異常などが増加していた。

直接グリホサートにさらされたF0やF1世代には明確な毒性が見いだせなかった一方、孫(F2)、ひ孫(F3)で病気の増加が見られたことから、今後の毒性評価においては、世代を越えた影響も考慮する必要があると考えられる。

精子のエピジェネティックな変異(DNAの配列自体は変化しないが、DNAのメチル化やヒストン修飾などによりDNAが変化すること。エピ変異。)などが今回の世代を越えた影響に関与していると著者らは考えているようだ。

主要参考文献・出典情報(Creative Commons)
Kubsad, D., Nilsson, E.E., King, S.E. et al. Assessment of Glyphosate Induced Epigenetic Transgenerational Inheritance of Pathologies and Sperm Epimutations: Generational Toxicology. Sci Rep 9, 6372 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-42860-0

管理人チャールズの感想

大変広く使われている除草剤が、世代を越えて健康に影響を及ぼしている可能性を示唆する研究でした。グリホサート除草剤は、特許で保護される期間が過ぎているため、モンサント社の「ラウンドアップ」以外にもジェネリック農薬として他社製の除草剤が安く市場に出回っているようです。農薬とどのように関わっていくかは、食の未来を考える上でも大事なテーマの1つに思います。

※2018年には、グリホサートがミツバチの腸内細菌をかく乱している可能性を指摘した論文が話題となりました。

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