ゲノム編集・CRISPRとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説

ノーベル賞候補ともいわれるゲノム編集技術。この衝撃的な最新テクノロジーは私たちの社会や生活を大きく変えつつあります。まだ日本語でわかりやすい説明が少ないように思いますので、英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」の論文などを参考にしながら、ゲノム編集やCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)について、当サイト管理人が理解している範囲で可能な限りわかりやすくまとめてみました。
※当記事執筆者はゲノム編集の専門家ではありませんので、学術的により正確・厳密な情報を求められる方は、記事最後に記載している論文など一次資料を直接ご覧下さい。

初めにざっくり言いますと、

ゲノム編集(遺伝子編集)とは:生物のDNA(遺伝子)の狙った場所を、どこでも非常に正確に改変できる技術のこと。従来の「遺伝子組み換え」とは違うメカニズムを利用しており、より自由に、正確かつ簡単にDNAの挿入や削除ができる。「遺伝子組み換え」の進化バージョンといえる。

CRISPR(クリスパー)とは:上記のゲノム編集技術の1つ。簡単で便利に遺伝子を編集できるため、2012年以降、急速に普及している。

ゲノム編集の簡単な原理や応用例・倫理的問題などをわかりやすく解説した動画3選

詳しいメカニズムよりも、ざっくりと全体像を理解したい方は、大変わかりやすい次の動画がおすすめです(日本語字幕つき、難易度:低~中)。

Genetic Engineering Will Change Everything Forever – CRISPR

遺伝子工学はすべてを永遠に変える – CRISPR | Kurzgesagt – In a Nutshell(日本語字幕つき、難易度:低~中)

次は、より詳しい仕組みにも触れた、CRISPRゲノム編集技術の生みの親とも言える科学者ジェニファー・ダウドナ氏によるわかりやすい解説動画です(日本語字幕つき、難易度:中~高)。

How CRISPR lets us edit our DNA | Jennifer Doudna

CRISPRでどのように私たちのDNAを編集するか | ジェニファー・ダウドナ |TED(日本語字幕つき、難易度:中~高)

最後は、日本の農林水産省による大変やさしい解説です(難易度:低)。倫理的問題などには触れていません。

解説動画「ゲノム編集技術」

参考動画:農林水産省 原始的な品種改良から遺伝子組み換えを経てゲノム編集にいたる道筋をとてもわかりやすく解説しています。倫理的問題などには触れていません。(日本語、難易度:低)

「遺伝子組み換え」では、狙った通り正確に遺伝子を改変できなかった

人類ははるか昔から作物や家畜の交配・品種改良などを通して生物の遺伝子を改変してきましたが、直接DNAを操作するようになったのは比較的最近のことです。

1970年代に発達した遺伝子組み換え技術では特定の遺伝子を生物に導入することが可能になりましたが、DNAの特定の位置を狙って組み込むことはできないなど、正確性や効率性に難がありました。

DNAを切る優れた「ハサミ」が新たに開発され、ゲノム編集の時代へ

その後、DNAを切る特別な「ハサミ」(=ヌクレアーゼ)が新たにいくつか開発され、遺伝子をより正確な位置で切断できるようになりました(=ゲノム編集)。

★ゲノム編集でDNAを切るために使われるハサミの代表例と、発明された年

1996年 ZFN(zinc-finger nuclease)

2010年 TALEN(Transcription activator effector-like nuclease)

2012年 CRISPR/Cas9

この中でも、特にCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)は簡単・便利に使える優れたハサミだったため、ゲノム編集技術が飛躍的に進歩しました。

ゲノム編集の仕組み:DNAの切断と修復のメカニズムを利用

ゲノム編集の基本原理(The CRISPR tool kit for genome editing and beyond Mazhar Adli https://doi.org/10.1038/s41467-018-04252-2 [cc] の図を改変)

ゲノム編集の仕組みの基本原理は、DNAの切断とその後の修復です。ヌクレアーゼ(はさみ)によってDNA二本鎖を切断したあとには、上図の通り、2種類の修復パターンがあります。

切断面同士がそのままくっつくと、特定の遺伝子が破壊されます。

DNAの鋳型をもとにして修復されると、 目的の遺伝子が挿入されます。

これらを利用して、遺伝子を望みどおりに改変します。

CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)の基本的な仕組み

 

CRISPR/Cas9システムの模式図

CRISPRとは、もともと細菌などが持つ一部のDNA領域のことで、細菌にとってはウイルスに対する免疫システムとして働いています。特定の配列のDNAを切断する働きを持っていたことから、ゲノム編集技術として応用されました。

CRISPR/Cas9では、「Cas9」というDNAを切るハサミと、どの場所を切るのかを決めてハサミを導く「ガイドRNA」が協調して働きます。CRISPRではガイドRNAをデザインするだけで、より簡単に、ほぼあらゆるDNA領域を自由に切断・編集できるようになりました。

また、複数の遺伝子を同時に改変することもできます。従来の手法よりも安価で効率的に標的のDNA配列を切断して自由に編集できるというメリットがあり、新しいゲノム編集の手法として急速に普及しています。

CRISPRのメカニズムを説明したアニメーション動画

Genome Editing with CRISPR-Cas9

【マサチューセッツ工科大学(MIT)マクガヴァン脳研究所の動画】 CRISPR-Cas9遺伝子編集のメカニズム・原理についてヴィジュアル的にわかりやすく解説したアニメーション動画です。(英語のみ)

今も進化し続けるCRISPRゲノム編集

CRISPR: Gene editing and beyond

【nature video】 ”CRISPR: Gene editing and beyond”:DNAを切断しない「第2世代」のゲノム編集について、素晴らしいアニメーションでわかりやすく解説しています。(英語のみ、専門的内容)

ゲノム編集は「第2世代」へ

これまで説明したDNAの切断と修復を利用したゲノム編集の時代から、さらに進歩した技術が現在開発されつつあります(=「第2世代」のゲノム編集)。例えば上の動画で説明しているように、

CRISPRのCas9(はさみ)に細工を加えるなどして応用すれば、

・DNAを切断することなく標的部位に特定の酵素を運んで、一塩基レベルのより精度の高い編集を行う

・遺伝子の翻訳を調節する

・蛍光タンパク質を取り付けることで、特定の遺伝子の位置やDNAの3次元構造を視覚化する

といったことが可能になるようです。

ゲノム編集の応用と課題・倫理的問題など

農業や生態系への応用

ゲノム編集食品

「ゲノム編集食品」夏にも食卓へ、課題も・・・ 190320

参考動画:TBS NEWS “「ゲノム編集食品」夏にも食卓へ、課題も” :筋肉を増やしたマダイ「マッスルマダイ」や収量の多いイネ・栄養価の高いトマトなど、ゲノム編集の応用例の他、ゲノム編集食品に対する消費者の懸念が解説されています。

ゲノム編集を利用して動植物の遺伝子を効率的に改変することによって、国内ではたとえば、肉付きの良いマダイや、毒のないジャガイモ、収量の多いイネなどが開発されています。

こうした「ゲノム編集食品」については、表示義務や安全性審査などに関して、消費者を交えながら議論が行われているようです。

関連記事(外部リンク)

誤解がいっぱい、ゲノム編集食品の安全性と表示を解説する(WEDGE) - グノシー
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)がゲノム編集技術を用いて研究、開発中の収量性の向上を目指したイネ(提供:農研機構)  ゲノム編集食品の安全性や表示をめぐり、ニュースが増えてきました。国も全国5カ所で説明会を開いています。  しかし、品種改良の科学や表示制度の仕組みがよく理解されないまま、報道されているように...

(元記事)誤解がいっぱい、ゲノム編集食品の安全性と表示を解説する

遺伝子ドライブ

CRISPRの他の応用例の1つに「遺伝子ドライブ」があります。マラリアを媒介する蚊や、ネズミなど外来の侵入種を絶滅させるなど、生態系を改変できる可能性を持つテクノロジーです。

Gene editing can now change an entire species — forever | Jennifer Kahn

参考動画:TED | 遺伝子ドライブ技術によってマラリアを媒介しない蚊を作り出す方法が解説されています(日本語字幕あり

遺伝子ドライブについては、次の記事で詳しく解説しています。

遺伝子ドライブとは?図や動画で原理・メカニズムをわかりやすく解説
遺伝子ドライブ(ジーンドライブ, gene drive)とは、通常のメンデル遺伝の50%の確率を越えて子孫に遺伝子が伝わるシステムのこと。遺伝子ドライブを応用すれば、例えばマラリアを媒介する蚊のような野外の生物個体群を人為的に改変できる可能性がある。遺伝子ドライブの原理・メカニズム・仕組みをわかりやすく簡単に解説。

医療への応用とデザイナーベビー

進む医学への応用

参考動画:アピタル編集部| やや古い(2016年)動画ですが、がん・エイズ・血友病の治療など、ゲノム編集の医療への応用について解説されています。

2017年にはヒトの受精卵にCRISPRゲノム編集を用いて、遺伝病の原因遺伝子を修正したとの研究が発表され、話題になりました。

さらに2018年には、ついに中国で世界で初めてゲノム編集により赤ちゃんが誕生しており、デザイナーベビー(知能指数や目・髪の色など、親が望むようにDNAを編集した赤ちゃん)の是非など倫理的問題に関する議論を巻き起こしています。

「ゲノム編集」で双子女児が誕生か

参考動画:TBSニュース|ゲノム編集により中国で双子の赤ちゃんが誕生したことが報道されています。

中国で遺伝子編集赤ちゃんが誕生した経緯については次の記事でも触れています。

世界初の遺伝子編集ベビーを誕生させた中国研究者、自ら語る【動画】
2018年11月、世界で初めて遺伝子編集した双子の赤ちゃんを誕生させたと発表し、倫理的問題などから強い批判を浴びている中国の賀建奎(フー・ジェンクイ)氏本人が、自らの声で語った動画をご紹介。CRISPRによる受精卵のゲノム編集で人間の遺伝子を改変することで、歴史的な一線を越えてしまったその動機・背景とは?

潜在的な危険性や課題

しかし、狙った場所以外のDNAを意図せず損傷させてしまう「オフターゲット効果」という現象が知られているなど、CRISPRゲノム編集の応用・実用化には潜在的なデメリットや課題もあります。また、技術的には生物兵器の開発などに利用されてしまう危険性も懸念されています。

ゲノム編集による意図しない遺伝子変異の例については、以下の記事で取り上げています。

ゲノム編集で生まれた角のない牛に細菌DNAの混入が発覚ー意図しない外来遺伝子が導入
ゲノム編集で家畜の遺伝子を改変した際に起きた意図しないDNA挿入が、外部機関の調査で見つかったようです。「bioRxiv」の論文によれば、ゲノム編集によって角をなくしたウシの遺伝子をFDA(アメリカ食品医薬品局)が調べた結果、外来の細菌の遺伝子が意図せずにウシのDNAに組み込まれてしまっていたことが発覚したようです。

テクノロジーは科学者たちの努力により確実に進歩していきますが、それをどのように用いるかは私たち次第です。近い将来、確実に誰もが直面する問題ですので、一人ひとりがよく考えながら、議論を深めていくことが大切かと思います。

【主要参考文献】

・The CRISPR tool kit for genome editing and beyond Mazhar Adli Nature Communications volume 9, Article number: 1911 (2018) https://doi.org/10.1038/s41467-018-04252-2

・1. 部位特異的ヌクレアーゼを基盤とするゲノム編集技術 山本卓ら https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/64/1/64_75/_pdf

※当記事は新しい情報などを元に今後も更新する可能性があります。

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