世界初の遺伝子編集ベビーを誕生させた中国研究者、自ら語る【動画】

2018年11月に世界で初めて遺伝子編集した双子の赤ちゃんを誕生させたと発表して、メディアや科学者たちから強い批判を浴びている中国の賀建奎(フー・ジェンクイ)氏。

受精卵のゲノム編集は、倫理的な問題などから、中国を含む多くの国で規制されています。また、CRISPRを利用した遺伝子編集は、意図しない場所の遺伝子を改変する恐れがあるなど、技術的にもまだ発展途上で、人間へ適応した場合のリスクは未知数です。さらに、賀氏が遺伝子を編集した目的だと主張するHIVの感染を防ぐ治療についても、その必要性に疑問が投げ掛けられているようです。

※ゲノム編集とは何か?については次の記事でまとめています。

⇒ ゲノム編集・クリスパーcrisprとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説

厳しい批判の渦中にある賀氏ですが、当の本人が、ゲノム編集赤ちゃんを誕生させた経緯や自身の心情などについて、わかりやすく語っている貴重な動画を見つけましたので、ご紹介します。

賀建奎(フー・ジェンクイ)氏、自ら語る

日本語字幕付き

オリジナル動画のクレジット表記(creative commons)
The He Lab “About Lulu and Nana: Twin Girls Born Healthy After Gene Surgery As Single-Cell Embryos”
https://www.youtube.com/watch?v=th0vnOmFltc 2018/11/25公開
(当サイトにて日本語字幕を追加)

以下、上の動画の日本語字幕の書き起こしです。

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2人の美しい中国の女の子の赤ちゃん、ルルとナナが、他のどんな赤ちゃんにも劣らず健康に、この世界で産声を上げました。数週間前のことです。女の子たちは現在は家にいて、母親のグレイス、父親のマークと一緒です。

グレイスの妊娠は、通常の体外受精によって始まりましたが、1つだけ違いがあります。私たちは、父親の精子を卵子へ送り込んだ直後に、少々のタンパク質と指令も送り込んだのです。遺伝子を手術するためです。

ルルとナナがたった1つの細胞のときに、この遺伝子手術によって入口を取り除きました。それは、HIV(エイズの原因ウイルス)がヒトに感染するための侵入口です。

数日後、ルルとナナを母親のグレイスの子宮に戻す前に、私たちはこの遺伝子手術がうまくいったかどうかをチェックしました。全ゲノム配列決定によるチェックです。結果は、手術が予定通り安全に行われたことを示していました。

母親のグレイスの妊娠は正常でした。私たちは、超音波や血液検査によって注意深く検査を行いました。出産後、私たちは再びルルとナナの全ゲノム配列を深く読みました。これによって確認できたことは、遺伝子手術が安全に行われたということです。どの遺伝子も変化していませんでした。ただ1つの例外として、HIVを防ぐ遺伝子だけが変化したのです。

ルルとナナは、他のどんな赤ちゃんにも劣らず健康で心配はいりません。

父親のマークは初めて娘たちを見たとき、「自分がまさか父親になれるとは思わなかった」と話しました。今や、彼は生きる理由、働く理由、そして目的を見つけだしたのです。

おわかりでしょうが、父親のマークはHIVを持っています。多くの発展途上国における差別のせいで、HIVはさらに悪化しています。雇用主はマークのような人々を解雇します。医者は医療ケアを拒み、女性たちに強制不妊手術を行うことさえあります。マークとグレイスは、このような恐ろしい世界へ子供を産み落とすことに耐えられませんでした。

マークの言葉から、私はこれまで十分に気付いていなかった新しいことを学びました。遺伝子手術は、嚢胞性線維症などの致命的な遺伝病や、HIVなどの生命を脅かす感染から子供を救える可能性があります。しかしこの遺伝子手術は、健康に暮らせる平等な機会を少年や少女に与えるのみならず、家族全体を癒すのです。

2児の娘の父として、私が思うに、社会への最も有益な美しい贈り物は、新たなカップルに愛情に満ちた家庭を築き始める機会を与えることです。

世界初の「試験管ベビー」としてルイーズ・ブラウンが生まれたとき、メディアはパニックを煽りました。しかし40年の間に、規制やモラルも体外受精とともに発達してきました。治療への応用のみに限定することを約束しながら、800万人以上の子供の誕生に貢献してきました。

遺伝子手術は、体外受精のさらなる進歩であり、少数の家族に貢献することのみを目的としています。少数の子供にとっては、初期の遺伝子手術だけが唯一の生き残る方法かもしれません。遺伝病を治して、生涯にわたる苦しみを防ぐのです。このような子供たちに対しては、どうか憐れみをかけてください。

彼らの親たちは、デザイナーベビーを望んではいません。薬では抑えられない病気で苦しむことのない子供をただ望んでいるだけです。遺伝子手術は治療のためのテクノロジーであり、そして、そこにとどまるべきです。IQ(知能指数)を高めたり、髪や目の色を選択することは、愛情にあふれる親がすることではありません。それは禁止されるべきです。

私は、自分の仕事が議論を巻き起こすであろうことは理解しています。しかし私は、このテクノロジーを必要としている家族がいると信じています。この私が、彼らの代わりに批判を受ける覚悟でいます。

皆さんは、私たちの倫理観や仕事について、もっと詳しく知ることができます。私たちは、よりシンプルな動画をいくつかすでに投稿しています。下のリンク*から、私たちの研究室のウェブサイトにアクセスすることもできます。ルルとナナ、あるいは私へ連絡したい場合には、この画面上のメールアドレスを利用してください。

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以上が賀氏の発言の引用です。

*Youtubeのオリジナル動画のページにあるリンクからは、研究室へアクセスできませんでした(2019年3月16日現在)。賀建奎元准教授はすでに大学を解雇されているようです。

賀氏が操作したとされる遺伝子はCCR5と呼ばれるもので、HIVが白血球に侵入するために利用する白血球表面の受容体に関わるだけではなく、記憶力や知能など脳の機能とも関係している可能性があるようです。

※2019年の研究では、賀氏が遺伝子CCR5を操作したことで、赤ちゃんの寿命が短くなってしまっている可能性が指摘されています。⇒(追記)この論文は2019年10月6日に撤回されたようです。

ゲノム編集を利用した別なHIVの治療法についての研究も発表されています。

HIVの除去にマウスで成功ー抗ウイルス薬とゲノム編集を併用、完治治療へ向け一歩前進か【最新研究】
抗ウイルス薬を用いる現在のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)治療では、HIVは完治しないため、薬を一生飲み続ける必要があるようです。しかし今回、英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に2019年7月に掲載されたPrasanta K. Da...

技術自体は科学者たちの努力によって確実に進歩していきますので、人間の遺伝子をどこまで改変するかについては、最終的には科学の問題というよりも、むしろ倫理的・道徳的な価値判断の問題になりそうですね。近い将来、誰もが向き合わなければならないテーマでしょう。

CRISPRゲノム編集などに関わる話題については、以下の記事でも取り上げています。

⇒ ゲノム編集・クリスパーcrisprとは?図や動画でわかりやすく簡単に原理・応用例や倫理的問題を解説

⇒ CRISPRを応用した最新害虫管理方法、ゲノム編集で卵から不妊雄のみ発生

⇒ CRISPR/Cas9遺伝子ドライブに「抵抗性」の壁 ー最新研究

⇒ 遺伝子ドライブとは?原理・メカニズムの要点を簡潔に解説(動画・図説あり)

⇒ 実験で蚊の絶滅に成功した遺伝子ドライブーその危険性、課題と安全対策

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