アフリカなどの先住民族に見られるボディペイントには、一体どんな意味があるのだろう?英科学誌「Royal society Open Science」に2019年1月に掲載されたGábor Horváth氏らの研究によれば、先住民族のボディペイントには、シマウマのしま模様と同様に、吸血昆虫に対する虫除けの効果があるようだ。
先住民族のボディペイント
参考動画 “Belgian label co-designs with Ethiopian body painting artist”(Akaso Akaso):エチオピアのカロ族がベルギーのファッションブランドとコラボしている。
参考動画 “Body Painting. Ethiopian Tribe – Planet Doc Express”(Planet Doc Express Documentaries):同じくエチオピアのカロ族のボディペイント。鳥の羽やシマウマの縞模様を模していると動画では解説されている。
ボディペイントはアフリカ・オーストラリア・パプアニューギニアなどの先住民族の間で広く見られる。多くのボディペイントでは、茶色の肌に、白色または灰色・明るい黄色・ベージュのストライプ(しま模様)が描かれる。ボディペイントを施す人々が現在住んでいる所には、吸血性のアブが多い。現地の人々はしばしば、体表の肌が露出した茶色の部分にアブから攻撃を受け、吸血を介して危険な病原菌に感染してしまうリスクがある。
シマウマはなぜシマシマ?縞模様の存在理由
(Photo by Lukas Kaffer [CC])
(photo by Thivierr)
シマウマが何故しま模様をしているのか?については、19世紀のダーウィンの時代から議論が続いている。ダーウィンと同時代の生物学者ウォーレスは、シマウマの白黒の縞模様は、背の高い草の中で捕食者に対するカモフラージュとして進化したと主張した。しかしダーウィンは、シマウマはむしろ短い草が生えた開けた場所を好む、としてこのカモフラージュ説を批判したらしい。他にも温度の制御や、社会的な相互作用に関係するなど多くの仮説があるが、実験的に検証されたものはほとんどなく、縞模様の理由は長らく不明だった。
しかし2012年の研究によって、シマウマの縞模様はアブを寄せ付けにくくする効果を持つことが実験的に示されている。そこで、Gábor Horváth氏らは、先住民族のボディペイントの白い縞模様にも同じ効果があるのではないかと仮説を立て、検証実験を行った。
※2019年の研究では、シマウマの縞模様の謎についてまた新しい証拠が見つかっています。
⇒ シマウマが縞を持つ理由は?縞模様の服を馬に着せる実験で新たな証拠ー最新動物研究
実験結果
立った姿勢の3種類のマネキン
(Gábor Horváth et al. Striped bodypainting protects against horseflies https://doi.org/10.1098/rsos.181325 [cc]の写真を改変)
横たわった姿勢の3種類のマネキン
(Gábor Horváth et al. Striped bodypainting protects against horseflies https://doi.org/10.1098/rsos.181325 [cc]の写真を改変)
3種類のマネキンを粘着材で覆って野外に設置し、引き寄せられたアブの数を測定した。
・茶色の肌のマネキンは、白い縞模様のマネキンと比べて、合計で10倍以上のアブを引き寄せた。
・コントロールとして設定したベージュのマネキンは、白い縞模様のマネキンより、合計で2倍以上のアブを引き寄せた。
・立った姿勢のマネキンにやってきたのは血を吸うメスのアブだけだった。
・横たわった茶色のマネキンには、血を吸うメスのアブだけでなく、水を求めているオスも引き寄せられた。マネキンの光の反射の仕方が水表面の光反射と似ていたためかもしれない。
まとめ
白い縞模様のマネキンが一番アブを引き寄せなかったので、ボディペイントの白い縞模様にはアブに対する虫よけ効果があると考えられる。その結果として、吸血昆虫を介して病気に感染するリスクも下がるだろう。
ただし、アブを寄せつけにくくするメリットはあくまでボディペイントの副産物で、ボディペイントの主要な存在理由は文化的・社会的なものだと著者らは考えているという。
※シマウマの縞模様の謎については次の記事でも詳しく取り上げています。
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