抗生物質の過剰な使用を避けるべき新たな理由が見つかった。
米科学誌「プロス・パソジェンズ」で先月発表されたKoji Watanabe氏らの研究によると、抗生物質の使用により腸内のマイクロバイオーム(細菌叢、微生物叢)が撹乱されると免疫力が低下することが示唆された。
マイクロバイオーム(微生物叢、細菌叢)とは?
抗生物質の過剰使用という問題
近年、複数の抗生物質が効かない「多剤耐性菌」が増加しており、抗生物質の過剰な使用が問題視されている。
抗生物質の使用は耐性菌が増える原因となるだけでなく、マイクロバイオームを撹乱して人体に悪影響を及ぼす可能性もある。
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Koji Watanabe氏らの研究では、ヒトの幼児と抗生物質で処理したマウスで、マイクロバイオームとアメーバ症の関係について調べられた。
アメーバ症とは
マイクロバイオームがアメーバ症に影響?
赤痢アメーバが引き起こすアメーバ症は、自覚症状がないものから命の危険に及ぶものまでさまざまで、寄生性の感染による病気・死亡の世界的に主要な原因の一つである。しかし感染を引き起こす決定要因はいまだにはっきりしていない。近年の研究により、マイクロバイオームが赤痢アメーバの病原性に影響することが示唆されている。
免疫の役割を果たす「好中球」
一方、好中球は、赤痢アメーバの腸への侵入を防ぐための免疫として重要な役割を果たす。
マイクロバイオームのバランスが崩れる(ディスバイオーシス, Dysbiosis)と好中球に影響が及ぶことが知られているが、感染症の防止にどう関係するかはまだわかっていない。
Koji Watanabe氏らの研究ではマイクロバイオームがアメーバ症の症状の深刻化にどう関係しているか調べられた。
抗生物質によりアメーバ症が深刻化
・アメーバ症の症状が顕在化した子供ではマイクロバイオーム(腸内細菌など)の多様性が低下していた。
・抗生物質であらかじめ処理したマウス(=腸内細菌など微生物群の多様性低下)では、アメーバ症の症状が深刻化した。
腸内フローラ(マイクロバイオーム)が赤痢アメーバに対する免疫に及ぼす影響(Koji Watanabe氏らの論文の図を改変)
マイクロバイオームのバランスが崩れると、好中球をうまく呼び込むことができず、また粘膜による防御機能も低下するため、アメーバ症が深刻化することがわかった。
※原則として、抗生物質は医師や薬剤師の指示や相談のもとで、必要な場合に、適切な量を適切な期間、服用して下さい。自己判断のみで服用を途中でやめたりすると、耐性菌を増やす原因となる可能性がありますのでご注意下さい。
管理人チャールズの感想
耐性菌の増加とはまた別な視点から抗生剤の問題点が指摘されましたね。同時にマイクロバイオームの重要性も浮き彫りになりました。今後も多様な観点から人々の健康に関する理解が深まっていくことが期待されます。
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