スマホやパソコンの画面と長時間向き合うことで、何かしら健康に悪影響がある可能性も否定はできないのかも知れません。
学術誌「npj Aging and Mechanisms of Disease」に2019年10月に掲載されたTrevor R. Nash氏らの論文では、ショウジョウバエの実験から、ブルーライトに長期的にさらされた場合の影響として、寿命低下や脳のダメージといったリスクが報告されています。
Trevor R. Nash氏らの論文[CC]の冒頭部
ブルーライトの影響
一般的に用いられているLED(light-emitting diode, 発光ダイオード)は、しばしば波長460nmをピークとするブルーライト(青い色の光)を高い割合で発するようです。
LED照明やスマホ・パソコンなどのディスプレイが普及することで、人々がブルーライトにさらされる機会は増加しつつあるようです。
コンピュータのスクリーンなどから発せられる人工的な光が、睡眠や概日リズム(体内時計)障害の危険因子となりうるとの研究報告はすでにあるようです。(例えばChang et al. 2015, Green et al. 2017)
ブルーライトが目に影響を与える可能性については議論がなされている(F.Behar-Cohen et al. 2011)ほか、眼球外の光がヒトの脳に影響を及ぼすことを示した研究(Lihua Sun et al. 2017)もあるようです。
ブルーライトがハエの寿命や脳、運動能力などに悪影響か
ショウジョウバエ (CREDIT: André Karwath aka Aka[CC])
今回、Trevor R. Nash氏らの研究では、ショウジョウバエを実験材料として、1日24時間の光の条件を操作することで、ブルーライトの長期的な影響が調べられました。
※以下で用いている図は、全てTrevor R. Nash氏らの論文[CC]からの引用です。
24時間の光の条件としては、
・12時間白色蛍光灯:12時間暗闇(L:D) ・12時間暗闇:12時間暗闇(D:D)(=ずっと真っ暗) ・12時間ブルーライト(青色)LED:12時間暗闇(B:D) ・12時間青色を除去した白色LED:12時間暗闇(W-B:D) |
などが設定されました。
↑本実験で使用した光の波長スペクトラム。aは白色蛍光灯(L:D条件で使用)、bは青色LED(B:D条件)とフィルターで青色を除去した白色LED(W-B:D条件)
本実験のショウジョウバエには、眼が白い系統(w)や赤眼の野生型(CS)などが使われました。
光にさらされたハエでは寿命や運動能力が低下
↑光にさらされたハエ(L:D)では、暗闇で育てられたハエ(D:D)よりも寿命が低下し(a, c)、ガラス壁を登る高さも低下しています(b, d)。
光の中でも、特にブルーライトの影響が大きい可能性
↑ブルーライトにさらされたハエ(B:D)では寿命が大きく低下した一方、ブルーライトを除いた光にさらされたハエ(W-B:D)ではそれほど寿命は低下しませんでした(a, b)。また、ブルーライトの強度(PFD, 光量子束密度)が高いほど寿命の中央値は低下したようです(c, d)。
ブルーライトによって目の網膜の光受容体にダメージか
↑ハエの眼の網膜の断面図(a, b)。ブルーライトにさらされたハエ(B:D)では、赤矢印で示した感桿分体の数が減少したようです(c, d)。
ブルーライトによって脳にもダメージか
↑ハエの脳の断面図(c)。ブルーライトにさらされたハエ(B:D)では、脳にもダメージが見られたようで、神経の消失を示唆する空胞(赤矢印)の面積が増えたようです(c, d)。また、ブルーライトによる寿命や脳・運動能力への悪影響は、眼を持たない変異系統(eya2)でも見られたため、眼や網膜へのダメージとは直接関係ないことが示唆されています(a, b, c, d)。
ブルーライトの影響は、曝露期間や年齢によって変わる?
↑ブルーライトに25日間さらされたハエの寿命中央値は60日だったのに対し、30日間さらされたハエではわずか34日でした。また、ブルーライトにさらされる日齢(時期)によっても寿命への影響が変化したようです(高齢の個体の方がブルーライトのダメージが早く蓄積してしまうといった可能性が考えられる)。
まとめ
・「12時間ブルーライト/12時間暗闇」の環境で育てられたショウジョウバエでは、「24時間暗闇」や「12時間ブルーライトを除いた白色光/12時間暗闇」の環境のハエよりも寿命が短かった。
・ブルーライトの環境で育てられたショウジョウバエでは、網膜へのダメージや脳の神経変性、移動能力障害などがみられた
・眼がないハエでも寿命低下や脳へのダメージや運動能力の低下が見られたため、ブルーライトのこうした影響は眼や網膜のダメージとは直接関係ないかもしれない。
・ブルーライトの影響は、曝露期間や時期(年齢)によっても変わるかもしれない。
管理人チャールズの感想
モデル生物である昆虫を材料として、ブルーライトの長期的な健康影響について調べた興味深い研究でした。
細かいことですが、ブルーライトによる網膜や脳へのダメージを評価するには、D:D(光なし)との比較ではなく、L:DやW-B:Dとの比較(つまり青色光以外の光によるダメージとの比較)の方がわかりやすい気がしたのですが・・・どうなんでしょう。
ちなみに論文の著者らは、ブルーライト対策として、琥珀色のメガネやコンピュータ画面の適切な設定を推奨しているようです。
日本でもブルーライトをカット・軽減するというメガネやフィルム・フィルターなどブルーライト対策グッズが色々あるようですが、私は今のところ特に使ってないです。実際どれほど効果があるのでしょうかね・・・。
一応、個人的なブルーライト対策として、パソコンのディスプレイをローブルーライトに設定しているほか、画面から物理的になるべく距離をとるようには心がけています。
↑例えばWindows10でも画面を夜間モードに設定できます。
まだはっきりした科学的根拠・エビデンスがある訳ではないと思いますが、スマホやパソコンなどに向かっている時間が長い人は、念のために何かしらの対策を検討してみてもいいのかもしれませんね。
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