化石の例としてよく知られる三葉虫が、集団行動をとっていた可能性が判明したようです。
英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2019年10月に掲載されたJean Vannier氏らの論文では、一列に並んだ三葉虫の化石を発見したことが報告されています。
さまざまな動物の集団行動
鳥の飛翔や魚の遊泳のほか、無脊椎動物でもガの幼虫やバッタなどの昆虫の群れ行動、イセエビの行進(下の動画参照)など、さまざまな動物で集団行動が知られています。
しかし、このような動物の集団行動の進化的起源や初期の歴史については、これまでよくわかっていなかったようです。
参考動画|Cousteau:イセエビの仲間が海底で一列になって行進する様子が見られます。
一列に並んだ三葉虫の化石を発見!
↑一列に並んだ三葉虫の化石。大きさは左下のスケールバー(1cm)参照。(Jean Vannier氏らの論文[CC]より引用、CREDIT
Jean Vannier, Laboratoire de Geologie de Lyon: Terre, Planètes, Environnement (CNRS / ENS de Lyon / Université Claude Bernard Lyon 1))
今回モロッコで発見されたこの化石は三葉虫の一種Ampyx priscusで、古生代オルドビス紀前期(約4億8千万年前)のものと考えられるようです。
三葉虫とは海で生活していた節足動物の仲間で、古生代末期に絶滅したと言われています。
↑拡大した三葉虫の形態の画像。長い特徴的な棘(トゲ)が見える。(Jean Vannier氏らの論文[CC]より引用)
↑一列に並んだ三葉虫の別な化石(Jean Vannier氏らの論文[CC]より引用)
なぜ三葉虫は一列に並んでいた? 2つの仮説
↑三葉虫が一列に並ぶメカニズムについての仮説(Jean Vannier氏らの論文[CC]より引用)
この三葉虫が一列に並んで集団行動をとっていた理由としては、
・嵐などによる生息環境のかく乱に対する応答(より穏やかな海域へ集団で移動するなど)
・産卵場所への移動など、季節的な繁殖行動(今回の化石集団には幼生はほとんど含まれておらず、性的に成熟したと考えられる成体などが大半だった)
などの可能性が挙げられています。
この三葉虫(Ampyx priscus)は目が見えなかったと考えられているため、トゲを介した機械的な刺激やフェロモンなどの化学シグナルによって集合・整列したと推測されているようです。
一列に並ぶメリットとしては、流体力学的な抵抗を減らしてエネルギーを節約したり、天敵・捕食者から攻撃されにくくなる、といった可能性が挙げられています。
今回の発見によって、動物の集団行動の進化的な起源は非常に古いことが示唆されているようです。
管理人チャールズの感想
三葉虫についての興味深い論文でした。限られた痕跡から大昔の生物の生態や行動について考察している論文では、推理小説を読んでいるかのようなワクワク感があるかもしれませんね。
一列に並んでいた理由については、食べ物・エサを求めた移動や集団脱皮の可能性なども検討されたようですが、これらの仮説を支持する証拠は見つからなかったようです。
今回の三葉虫の化石については、水流などの影響で偶然きれいに整列したのではなく、三葉虫が集団行動をとっている時に突然生き埋めになったりしてできた可能性が高いと論文の筆者らは考えているようです。
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