人工肉(培養肉)が近年注目されているようですが、たとえば食感などの面でまだ課題もあるようです。
学術誌「npj Science of Food 」に2019年10月に掲載されたLuke A. MacQueen氏らの論文では、より本物の肉らしい食感を作るために、ゼラチンを材料とした新たな繊維を開発したことが報告されています。
アイキャッチ画像クレジット:David Parry / PA Wire(editorial use)
人工肉(培養肉)とは?メリットや課題
参考動画|Wall Street Journal:人工肉の現状についての動画。培養肉チキンナゲットやステーキなど、企業の取り組みや試食の様子などが紹介されています(英語のみ)
人工肉(培養肉)とは何かについて、正確に定義するのは意外と難しいようで、そもそも肉と呼んでいいものかという問題もあるようです。
本記事作成時点でのWikipedia(英語版)の記事によれば、
人工肉とは、動物を屠殺(とさつ)する代わりに、生体外で動物細胞を培養することによって作られた肉 |
と説明されています。「クリーンミート」と呼ばれることもあるようです。
人工肉の作り方は、再生医療での臓器・組織の作成方法と技術的に共通する面もあるようです。
再生医療と人工肉製造の仕組みの比較(figures by Brad Wierbowski, SITNBoston[CC])
人工肉(培養肉)の潜在的なメリット
人工肉(培養肉)は、現在の畜産システムと比べて、たとえば次のような潜在的メリットがありうるようです。
・温室効果ガスの排出、土地・水の使用、富栄養化などの環境負荷を減らせる可能性 ・サルモネラや鳥インフルエンザなど病原菌のリスクを減らせる可能性 ・栄養の付加や新製品の開発などがより容易になる可能性 ・動物を殺さなくてすむため、ベジタリアンを含めて倫理的に受け入れられる可能性 |
人工肉(培養肉)の課題
約3000万円かけて作られたという、2013年の世界初の培養肉バーガー(credit:World Economic Forum[CC])
一方、培養肉が実際に人々の食卓に上がるようになるまでには、たとえば次のような解決しなければならない課題があるようです。
・コストを下げる ・大量生産を行う ・風味や食感などを本物の肉に近づける |
本物の肉に似た筋肉細胞を培養するには、筋肉細胞が取り付いて立体的に成長できるような「足場」が必要なようです。
しかも、その「足場」は食べられる素材でできているのが望ましく、大量生産できる必要があります。
今回、Luke A. MacQueen氏らの研究では、このような「足場」として、大量生産できるゼラチンを原料とした繊維を新たに開発したとのことです。
本物らしい筋肉細胞を育てるための「足場」:ゼラチン繊維
※以下の動画・画像は全てLuke A. MacQueen氏らの論文[CC]からの引用です。
↑条件を変えることで、繊維の太さや多孔性などの特性も変えられるようです。
↑ゼラチン繊維の上で培養されたウサギの骨格筋筋芽細胞。繊維の長さや架橋の状態によって、細胞の配置や組織形成のあり方も変化するようです。
ウサギ・ウシの細胞由来の培養肉(左)と、本物の肉(ウサギの筋肉、ベーコン、牛ひき肉)との比較画像。天然のウサギの筋肉に見られるような密に詰まった筋線維は、今回の培養肉では再現できなかったようです。
今のところは、まだ本物の肉には及ばないようですが、このまま技術が進歩し続ければ、いずれ栄養、味、食感、価格などの面で納得いく人工肉が作れる可能性が本研究で示唆されています。
管理人チャールズの感想
人工肉(培養肉)に関する興味深い研究でした。2013年に作られた最初の培養肉ハンバーガーには3000万円かかったようですが、今ではすでにだいぶ価格は下がっているみたいですね。
大豆など植物由来の人工肉(フェイクミート、代替肉)はもうすでに市場に出回っていると思いますが、そう遠くない将来、細胞から作られた培養肉も、日本で普通に購入できるようになるでしょうね。
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