生まれつき指が5本より多い「多指症」と呼ばれる人たちには、指を操るうえでメリットがあるようです。
英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に2019年6月に掲載されたC. Mehring氏らの研究では、1つの手に6本の指を持つ多指症の被験者が調べられた結果、指の動きは脳でうまく制御されており、5本指の人よりもさらに器用に指を操れることが初めて明らかになったようです。
6本の指によって拡張された能力
参考動画|Imperial College London: 6本の指で様々なタスクを行う様子が見られる。靴ひもを結ぶような、普通では両手を必要とするような複雑タスクも、片手だけで行えている。
参考動画|Imperial College London:今回の実験に参加した、6本指を持つ被験者の手。
多指症とは?
多指症とは、生まれつき手の指が5本以上あるもので、ヒトではそれほど珍しくなく、約0.2パーセントの確率で発生するようです。しかし、余剰指は役に立たないと見なされているといった理由から、出生時に除去されることが多いようです。
考古学的な証拠によれば、メソアメリカ文明(マヤ文明など)ですでに多指症のヒトが存在していたことがわかっているようです。
また、近年の研究では多指症に関わる遺伝子も特定されているとのことです。
しかし、余剰指を含む多数の指の複雑なコントロールをヒトの脳がうまく行えるのかどうかや、6本指にメリットがあるのかどうかについては、これまで調べられていませんでした。
本研究の被験者の右手。黄色は骨、青は腱、緑と赤は筋肉。余剰指に特化した筋肉もついていることがわかる。(C. Mehring氏らの論文 [CC]より引用)
今回の研究に参加した2名の被験者はともに、6本目の余剰指を他の指とは独立に動かすことができたようです。また、各指を動かしているときの脳の運動感覚皮質をfMRIを用いて調べた結果、余剰指を動かすためには、他の指とは別の特化した神経が使われていることがわかったようです。
各指を動かしているときの脳の活動を視覚化した図。上が6本指の被験者、下が5本指の対照被験者。6本目の余剰指を動かすために、他の指とは異なる脳の領域が使われているようだ。(C. Mehring氏らの論文 [CC]より引用)
このように本研究では、6本指を持つ多指症の被験者が指を操る能力や、指を動かすメカニズムなどについて初めて調べられた結果、余剰指は特化した筋肉や神経を持っていて脳でうまくコントロールされており、5本指よりもさらに複雑な動きが可能であることがわかりました。
普通の5本指の人に人工的な余剰指を追加したり、ロボット工学的な腕や足を追加したりすることによって人間の能力を拡張しようという試みはすでになされているようですが、本研究で得られた知見もそうした技術の発展に役に立つかもしれない、とのことです。
管理人チャールズの感想
6本指の優れた能力について報告した、興味深い研究でした。動画で指の動きを見てみても、6本をうまく使って大変器用にタスクをこなされているように見えます。この研究と直接関係はないのですが、「ガタカ」という少し古いSF映画の一場面で、指がたくさんあるピアニストが演奏しているシーンのことをふと思い出しました・・・
参考動画|BBC:ブラジルの多指症の家族の例。指が6本のギタリストがギターを弾く様子や、ピアノを弾く多指症の子供が紹介されています。6本指のサッカーのゴールキーパーも登場しており、スポーツ選手にとってメリットとなるケースもあるのかもしれません。
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