企業がゲノム編集によって家畜の遺伝子を改変したときに、意図しないDNAが組み込まれてしまったことに気づかず、そのまま見過ごされてしまっていたようです。
生物学プレプリントサーバ「bioRxiv」で2019年7月に公開されたAlexis L. Norris氏らの論文によれば、ゲノム編集によって角をなくしたウシの遺伝子を外部機関が調べた結果、外来の細菌の遺伝子が意図せずにウシのDNAに組み込まれてしまっていたことが発覚したようです。
アイキャッチ画像:ゲノム編集で生まれた角のない牛と通常の牛(Alison L. Van Eenennaam氏らの論文[CC]より引用)
ゲノム編集による家畜の遺伝子の改変
参考動画|SciFri:ゲノム編集によって角が生えないように遺伝子を改変したウシについての解説動画(英語のみ)
ウシの角は他個体や飼育者を傷つける危険性などがあるため、乳牛ではしばしば、子牛の段階でまだ成長していない角を熱によって取り除く(除角)ようです。しかし、この除角は痛みを伴うため、動物福祉の観点から問題視されており、ゲノム編集はその代替策として期待されている面があるようです。
ゲノム編集された除角牛の遺伝子から、意図しない細菌のDNAを発見
今回、FDA(アメリカ食品医薬品局)がゲノム編集された除角牛の遺伝子を調査した結果、目的の遺伝子を導入するために使われた鋳型プラスミド(細菌のDNA)が、意図せずウシのゲノムに組み込まれてしまっていたことが確認されたようです。
↑a:鋳型プラスミド b:編集されていない遺伝子 c:編集された遺伝子 ⇒ 一方の対立遺伝子にはプラスミドの一部と導入遺伝子の余分なコピーが組み込まれてしまっている(Alexis L. Norris氏らの論文[CC0]の図を引用)
この牛に組み込まれたプラスミドには抗生物質耐性遺伝子などが含まれていたようですが、牛そのものへの潜在的な影響や、この牛を人間が食べる場合の安全性などについては、この論文では特に言及されていません。
企業や研究者がゲノム編集による意図しない遺伝子変異を見過ごさないためには、既存のスクリーニング技術をさらに改良することが必要なようです。
管理人チャールズの感想
昨年末には、中国でゲノム編集によりHIV耐性を持つように遺伝子改変された赤ちゃんが誕生し、大きな物議を醸していましたね。
最近では、医療面への応用だけでなく、遺伝子改変した家畜や作物など、ゲノム編集食品の規制・表示についても色々と議論が行われているようです。
潜在的なメリットとデメリット、安全性や倫理的な問題など考えるべきことはたくさんありますが、ほとんどの全ての人がいずれは向き合わざるを得ない重要なテーマだと思います。
ゲノム編集については以下の記事でも取り上げています。
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