妊娠中にフッ化物(フッ素と他の元素との化合物の総称)に曝されることで子供の知能発達に有害な影響が及ぶ可能性が最新研究で示され、物議を醸しているようです。
アメリカの医学雑誌「JAMA(米国医師会雑誌)」に2019年8月に掲載されたRivka Green氏らの論文では、カナダの約500組の母子から集めたデータを分析した結果、母親が妊娠中に高レベルのフッ化物に曝されることと、子供の3~4歳時の知能指数(IQ)が低いことに関連が見いだされたようです。
フッ素摂取と子供の知能指数の関係
参考動画|NHS(イギリス国民保健サービス):本研究の概要を解説した動画。フッ化物は歯のエナメル質を強化したり虫歯を防ぐ効果があると考えられているため、歯磨き粉などに含まれている他、イギリスの一部地域でも水道水にフッ化物が添加されているという。
参考動画|CTV:本研究の概要を報道したカナダのテレビ局のニュース動画。カナダのいくつかの都市でも水道水にフッ化物が添加されており、本研究を行ったヨーク大学の研究者Christine Till氏はインタビューの中で「(フッ素は)安全だと広く信じられてきましたが、それに反する証拠が見つかり、ショックでした」と語っている。
フッ素の水道水への添加
水道水へのフッ化物添加(水道水フロリデーション)は虫歯予防のために1950年代に導入され、現在では、アメリカで暮らす人の66%、カナダで38%、ヨーロッパでは3%の住民にフッ化物が添加された水道水が提供されているようです。
厚生労働省のページによれば、日本では、過去に京都や沖縄などで実施されていたこともあるようですが、現在では水道へのフッ化物の添加は行われていないとのことです。
フッ素の潜在的な危険性・副作用
フッ化物は胎盤を通過することが知られており、ラットを用いた動物実験では、フッ化物が学習や記憶に関わる脳の領域に蓄積することが報告されているようです。
高レベルのフッ化物曝露が子供の知能の低さと関連していることは、近年の他の研究でも報告されており、例えば、Anna L. Choi et al. 2012, Kousik Das et al. 2016, L.Valdez Jiménez et al. 2017, Morteza Bashash et al. 2017 などが挙げられています。
このように、フッ素の効果や潜在的な毒性については科学者の間でも議論が続いているようです。
(関連記事)
HARVARD PUBLIC HEALTH: Is Fluoridated Drinking Water Safe?
Cochrane(コクラン): Water fluoridation to prevent tooth decay
本研究の概要
今回、Rivka Green氏らの研究では、カナダの約500組の母子のデータを解析することで、妊娠中のフッ化物曝露と子供(3~4歳時点)の知能指数との関係が調べられました。
母体のフッ化物曝露の指標としては、尿中のフッ化物濃度(下図A:Maternal urine)と、水道水やお茶・コーヒーなどの消費量から推定した1日のフッ化物摂取量(下図B:Fluoride intake)が用いられました。
↑尿中フッ化物濃度とフッ化物摂取量ともに、水道水にフッ化物を添加している地域に住んでいる妊婦の方が、水道水にフッ化物を添加していない地域の妊婦よりも、高いことがわかりました(Rivka Green氏らの論文[CC]より引用)。
↑母体の尿中フッ化物濃度が高いことと、男の子の知能指数(IQ)が低いことには関連がみられました。一方、子供が女の子の場合には有意な関連は見られなかったようです(左図)。フッ化物摂取量が多いことと、子供の知能指数が低いことにも関連が見られました。(右図)フッ化物摂取量が1mg増えると知能指数が3.66下がるような関係に相当したとのことです。(Rivka Green氏らの論文[CC]より引用)
これらの結果から、妊娠中のフッ化物摂取は減らす必要があるかもしれないと論文の著者らは、考えているようです。
管理人チャールズの感想
妊娠中のフッ素摂取が子供の知能発育に有害かもしれないという、ややショッキングな研究結果でした。ただ、この研究はあくまで観察研究であり、妊娠中のフッ化物曝露が直接的に子供のIQに影響するという因果関係を示したものではありません。それでも、影響力の大きい雑誌にこのような論文が出たことで、フッ素の毒性・危険性についての議論が再燃することは間違いなさそうです。
日本では今のところ水道水にフッ素添加は行われていませんし、普段の生活で水に困ることはあまりないかと思いますが、近い将来懸念される世界的な水不足の問題や水道民営化の議論など、水資源について考えるべきことはたくさんある気がしています。
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