CRISPRによるゲノム編集を応用した、新たな害虫駆除方法が発明された。2019年1月に英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されたNikolay P. Kandul氏らの論文によれば、ゲノム編集によって不妊のオスしか発生しないように遺伝子操作した卵を野外にまくことで、害虫個体群をコントロールできる可能性があるという。
CRISPR/Cas9ゲノム編集の応用
現在ではCRISPRによるゲノム編集によって、ほどんとあらゆる生物の遺伝子を正確に操作することが可能になっている。例えば近年ではCRISPR/Cas9の遺伝子ドライブによって、ハエや蚊・ネズミなど多くの動物で、最大99%の効率で遺伝を人為的に偏らせることに成功している。遺伝子ドライブはマラリアを媒介する蚊や、外来種、農業害虫などを駆除できる可能性を秘めている一方で、安全性や抵抗性進化の問題、倫理的課題を含めた議論が続いている。そこでKandul氏らは、遺伝子ドライブに代わる、CRISPRを応用した短期間で導入できる安全な害虫管理法を考案した。
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不妊虫放飼法とは
Back to the future: the sterile insect technique against mosquito disease vectors R.S.Lees et al https://doi.org/10.1016/j.cois.2015.05.011 から図を引用・改変(日本語追加)
不妊虫放飼法は、1930年代以降、作物害虫などの野外個体群を制御または根絶する技術としてアメリカ(例:ラセンウジバエ)や日本(例:ウリミバエ)などで用いられてきた。放射線の照射やボルバキア感染などによって不妊化したオスを大量に生産して野外に放つことで、個体群を抑えるという方法だ。しかし放射線を照射する場合はオスの交配能力などが低下してしまうという問題があるし、ボルバキアを用いる場合はメスもボルバキアに感染していると卵が孵化してしまうという問題がある。そこでKandul氏らは、より効率的に不妊のオスを作り出す方法を考案した。
CRISPRを利用した新たな不妊虫放飼法
CRISPRを利用した新しい不妊オス生産方法(Nikolay P. Kandul氏らの論文の図に日本語を追加)
CRISPRを利用して、メスの生存とオスの繁殖能力に関わる遺伝子を同時に破壊することによって、卵からは不妊のオスのみが発生する。
この卵を野外に大量にまけばよいので、従来のオス不妊化や性選別(メスの除去)の手間・コストを削減でき、規模を拡大できる。また、この新技術で不妊化したオスは、交尾能力にも問題がなかったという。デング熱やジカ熱を媒介するネッタイシマカなどの駆除にも応用が期待できると著者は述べている。
管理人チャールズの感想
CRISPRゲノム編集を応用した最新テクノロジーについての興味深い論文でした。一般にCRISPRゲノム編集には意図しないDNA部位を切断してしまうオフターゲット作用が知られており、本技術に関してもそれは少なくとも1つの懸念材料かと思います。
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